性格悪年下彼 | ナノ


▽ 20


私は彼にかける言葉もなかった。

何度か声をかけようと思ったけれど、どの言葉もシュミレーションしては消して、思いついては否定して、そんな事をずっと繰り返していて声をかけれず仕舞だった。

シンジくんは戻ってくるよ、などと信じてはいるものの
確定ではないのだ。

ドアから隣に一歩。壁に背中を預け、見上げると紫色の巨大な機械。
初号機……、この中にシンジくんがいるのだ。

いる、という言葉は間違っている…。
正確にはある、かもしれない。

大きな爪痕を残すこととなった先日の使徒戦。
零号機、大破。パイロット、綾波レイ、検査入院中。
弐号機、大破。
……ちなみに、大きな爪痕は私にも被害が来たのだけれど…

そして初号機パイロット、生存不明。

科学班に聞いた話だけれど、初号機パイロット碇シンジはL.C.Lの中に
―溶け込んでしまったらしい。

その件を聞き、四号機パイロット、渚カヲルはすっかり元気をなくしてしまった。

憂いた少年の顔を見やる。
彼は初号機の前に立っているので私と少し離れた場所にいる。
私がいることは多分気づいているんだろうけれど、
私に話しかけないのは気を遣わせてしまうという彼なりの優しさだと思う。


シュッと軽い音と共に隣から冷気がもれる。
ドアをみると赤木博士が立っていた。


「あら。」

「あ、ご苦労さまです!赤木博士!」

「そんなかしこまらないで。えっと、貴方、確か総務部の……」

「総務局三課、苗字 名前です!覚えてていただき光栄です」

「たまにマヤと話しているのをみていたからね。そうそう、貴方今暇かしら?」

「えっと、一応今日は非番ですが……」

「そう、じゃあよかったら付き合ってくれない?ちょっと外に買い物があるのよ。」


果たして赤木博士自体がこの状況で外に出ていいのだろうか……?
確か碇くんの件でプロジェクトがあるって聞いたような…。

総務部の方でそういったことで予算がどうのと一課が言っていたから覚えてはいる。
ただ一課の仕事なので内容は聞いていないけれど……。


「ふふ、貴方顔に出やすいのね。この前私が外に出るなって言った事を考えているのかしら?大丈夫よ、今回、最初の方は私は不要なのよ。ただ、後半は多分忙しくなるわ。
それでマヤから今日だけしっかり休んでくださいって言われたのよ。」

「ああ、なるほどですね。しかし何故私なんですか?」

「私、武闘とか出来ないのよ。ずっと科学者やってきたからね。銃だって構造はわかってても打てないわ。あと、貴方は会計もかじってるんでしょ?私が買いすぎた時に止めてほしいのよ。」

「それこそ、体術で止めますか?」

「骨が折れるわ。」


冗談をクスクスと笑って流してくれた。よかった、これ、冗談じゃなく本気で受け止められたらどうしようって思ってた……
実際、うちの上司は超がつくほど真面目だから冗談も真面目に捉えてしまう人なんだ。
つい先日、何を飲んでるのかと聞かれ、コーヒーをめんつゆと偽ったらドン引きされてしまった思い出がある。柔軟性がないんだから。

こういう人が上司なら頭よくなりそうだな、なんて頭悪いことを考えてしまった。


「ボディーガードですね。まあ、内部事情や人員構成等は一般人が知っているとは思えませんが、一人よりも二人ですよね。わかりました、引き受けます。」

「助かるわ、じゃあゲートの方で待っているから。」


そういって赤木博士は来た道を引き返していった。
私はというと、実は後ろに隠し持っていた烏龍茶を取り出した。

小走りでカヲルくんの足元にそっと置いて、逃げようとしたら
ため息混じりの声で「なにしてるんですか…」と頭の上から言われてしまった。


「お姉さんからのお土産。」

「なんで僕に直接渡さないんですか…」

「憂いてる君がかっこいいから」

「しゃべるなって事ですか……それはまた辛辣ですね」


私が置いた烏龍茶を持つとそのまま蓋を開けて飲み始めた。
よほど喉が渇いていたのか結構ごくごくと飲んで、蓋をしめる。


「声枯れてるわね、ちゃんと水分とりなさいよ?」

「わかりました…ありがとうございます。あと気を遣わせてしまいすみません。」

「なんのことやら?私はただ私の飲みかけの烏龍茶をカヲルくんが飲むかどうかを実験したかっただけだよ?」

「外で散財したあとにヒールがもげて帰りが歩きづらくて足を傷めないように気をつけてくださいね。」

「やけにリアルで地味に嫌な心配のされ方だ!」


なんだ、カヲルくんはさっきの話聞こえていたのか。
まあ、声響きやすいよね、格納庫って。

ちなみにさっきの烏龍茶はちゃんと新品で蓋をあけたのはカヲルくんだから
新品というのはわかっているはずだ。

うん、これだよ、いつものカヲルくんは。


「まー、でも気ぃつけていってくるよ!じゃね!」

「行ってらっしゃい。」


ひらひらと手を振られ、元気よく振り返す。
自分の部屋へと行こうとして、角を曲がったところで思い出した。


「しまった…、部屋がないんだった……」


そう、大きく爪痕を残したのは私にも被害があったのだ。
……まあ、私の部屋を壊したのはどちらかというなら初号機と四号機だったのだけれど。
初号機を止めにはいった四号機がもつれ合い……という感じで甚大な被害を残し、
私の部屋は完全に消滅した。
(ちなみに後日、カヲルくんがこれ以上はないってくらい謝ってきた。いまでも気に病んでいるらしい。)

今は三課に寝泊りしているんだけれど、如何せん服がない。
買い物も服や日常品を買いたかったので嬉しい申し出だったのだ。


「いっか、制服でも」


待たせては悪いし、と思いゲートの方へと向かうと白衣を脱いだ状態で
サングラスをかけていた赤木博士が立っていた。


「すいません!お待たせいたしました!」

「あら…、制服でいくの?大丈夫?」

「服が全部埋まってしまったので…、なので服を買ってそのままトイレとかで着替えようかな、なんて思ってます。」

「じゃあそちらから行きましょうか?早く着替えたいでしょ?」

「あははー…すみませんー……」


頭をかいて、赤木博士のあとについていく。
外へとのぼり、さきほどまでの涼しい空気がまるで嘘かのように
灼熱の空気が私の体へとまとわりつく。

外の景色もかわったなー…なんて引きこもりみたいな感想を思いながらキョロキョロとあたりを見渡す。
というのも最近使徒戦が続き、会計管理だけじゃなくて何故か管理部の方の仕事まで請け負っている。なので、最近はめっきりと外にもでなくなり、街の景色の変わりように少し、寂しさとちょっとした喜びを感じる。

……畜生。

前も見ずに歩いていると赤木博士にぶつかりそうになってしまった。


「わ、ど、どうし」
「特務機関NERV技術開発部技術局第一課、赤木リツコ博士とお見受けしますが、ご同行願えますか?」


―しまった、と思って一応護身用に持ってきたロッドをとりだそうとしたが
背中に何かがあたる。


「特務機関NERV職員もご同行を。」


私の青くなった顔を赤木博士が見て、ついていくしかないわね、と声をもらした。



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