▽ 18
「…そんなふてくされないでくださいよ…」
「わかってたけれどさ…、うん。」
私の体調もそこそこ良くなり、ようやくなんの不自由もなくなった日、
デートをしましょう、とカヲルくんにメールをした。
が、いざ行かん!としていたその時に、赤木博士がたまたま通りかかり
「貴方たち、どこへ行くつもりなの?」
と叱られてしまった。
今の現状を考えれば、赤木博士が苛立ちを覚えるのは当然なんだけれど…。
シンジくん、というより初号機パイロットの不在。
不在というか、まあ、降板という形になってしまった。
つまり今ちゃんと動けるパイロットはカヲルくんだけなのだ。
初号機のパイロットはダミープラグとしても、まだ実戦には向いていない。
零号機中破、弐号機中破、こちらも現在修復中ではあるけれど…、
予算の関係上、修復には時間がかかりそうだ。
余談だけれど、この予算のせいで総務部及び管理部と技術開発部が一度
バトルを起こしたらしい。
そういうのは上層部にいえと言ったのに聞いてくれなかったらしい。
私の入院中にそんな面白い事があったんだ…ちょっと見たかった。
話は戻る。
というわけで、デートはなくなり、カヲルくんは待機状態なので施設内をふらふらと回ることとなった。
「カヲルくんが悪いわけじゃない。シンジくんも。じゃあ何が悪いといえば、大人が悪いんだろうけれどさー。」
「何故大人なんですか…?」
「んー?だって子供を守るのは大人の役目じゃない?兵器に乗るのは大人でいいのに。」
「しかし若者が未来を作るというのも事実ですよ。」
「……赤木博士とおんなじ事言ってる。」
「彼女と僕は根が似ている気がしますからね。」
飲み終わったジュースを蓋を外し、中の氷をザラザラと捨てる。
捨て終わったところで蓋をはめ直しゴミ箱へ。
「さて、おまたせ、どこ行こうか?」
「行くところは限られていますからね…。大浴場、トレーニングルーム、トイレとか……」
「うん、君それ、私とデートする気ないだろう。」
「冗談だよ、冗談。そうなると……二人で行けるところはホントに限られますね……、僕は後日でもいいですよ?」
「……シンジくんが帰ってきたらね。体もなまってたしトレーニングルームでもいく?」
「じゃあそうしましょう。」
カヲルくんが頷いてから二人で歩き出した。
もちろん、トレーニングルームで特にすることはないんだけれど、
他にいい案も出そうもないし、なによりせっかくの休みで取っている時間、
カヲルくんと居れるのに何もせずただお茶をするってだけだともったいなさすぎるので。
二人でいつ碇総司令と冬月副司令の頭が後退するのかとか、好きな食堂のメニューとか
どうでもいい話をしながら歩いていたら、すぐにトレーニングルームについた。
「そういえば使徒戦の際にここの鏡の前でシンジくんたちが踊っていたらしいですよ」
「あの写真を思い出すからやめて…!」
そういえば撃破したあとも着地を失敗したんだっけ?
それも写真撮りたかったなぁ。
カヲルくんはランニングマシンの隣に立つ。
私も隣に並び、電源を入れる前にローラーの上に足を乗せる。
「普通に走るだけだとつまらないのでゲームでもしますか?」
「体力に自信はないからパスをしたいけれど……」
「拒否権はありませんよ?しりとりをしましょう。ハンデは僕は名前さんよりスピードを早くします。」
「勝ったら?何かくれるの?」
「そうですね…相手のお願い事、なんでも聞くというのはどうでしょう?」
「のった!超のった!!カヲルくん、私より時速10kmくらいプラスして!」
「吹っ飛ばす気ですか、名前さんは。じゃあ、始めますよ、『シンジ』」
「カヲルくんの脳内がシンジくんでいっぱいだ!じ、じ、磁石!」
そうやって始まったランニングしりとり。
最初は全然余裕だったけれど……もうお分かりの通り、
10分もすれば前傾姿勢で、手すりに両手を置いて、ぜえはあと息を吐きながら単語をいう女が出来上がってしまった。
私だ。
「く、く、九九……っ」
「…黒幕」
「く、…はっ…く、クリーム…」
「無気力、ふふ」
「く、ち、く!」
「クロック」
「く……く、ばっか…!!」
イジメにあっています。この子頭の回転早すぎるだろう…ッ!
すごい、いい笑顔で覗きこまれているので負けじと次の言葉を言うけれど、
結局返り討ちにあってしまう…。
「く、空襲!」
そんな言葉を大きく言った瞬間、一瞬電気が消える。
電気がつくと一度電源が切れたせいなのかランニングマシンのモニターが設定の画面になっていた。
「な、なに…?」
「……」
静寂の後、警報が施設内に鳴り響く。
エマージェンシーコールが鳴り止むとチルドレンの召集の連絡。
それと、非戦闘員の退避命令。
「退避、そんな…。」
「無理もない。零号機の左腕損傷、弐号機も万全とは言えず、初号機のパイロット不在。ちゃんと動けるのは僕一人だけだからね。……僕、いってきますね、名前さん」
「……絶対ここに帰ってきてよ…?」
「もちろんです。決着を後日つけるためにね。いいウォーミングアップになりました。ありがとうございます。」
そういって彼は走ってトレーニングルームから出て行ってしまった。
……不吉な言葉を残して…。
私も、退避の指示が出ているので汗を拭ったあと、自室に走り戻っていった。