性格悪年下彼 | ナノ


▽ 14


最悪だ…、携帯をどこかに落とした。
多分、カヲルくんの部屋だろうと思うけれど、今はもう既に
面会もしてはいけない時間だし…緊急でない限り病院に電話できないだろうし。

さすがにカヲルくんの番号を暗記しているわけでもないので
とりあえず自分の携帯にかけても無反応。

しょうがなく、三課の電話を借り、加持一尉と連絡。
メモを取り、明日の準備をするために居住区へと戻った。

退院するちょっと前に病院の方に連絡してみよう、とため息をつく。

明日に着ていく服を決め、布団を被る。


翌日、外はいつの間にか雨が降っていたらしく
私の靴へべしゃべしゃと泥を飛ばしてきた。


「時間より少し早かったかな、と思ってたんですが早かったんですね」

「女性を待たすのはポリシーに反するからね。」


そういって、私よりも早く来ていた加持一尉は吸っていたタバコを携帯灰皿へと落とす。
服装、可愛いね。と言われたけれど、別に可愛いと言われて手を叩いて
喜ぶ歳でもないので、どうも。とだけ返す。うん、嬉しくはあるけれどね。

そんな会話を続けててもしょうがないのでどこかにいこうかと足を動かそうとしたら
加持一尉がある一点を見つめたまま固まっていた。


「加持一尉……?」

「やあ、名前さん。」

「……へ?」


どこかで聞いた事のある声。
そう、渚カヲルだ。

女子達の熱っぽい視線を浴びながらこちらへと近づいてくる。
おや、アスカちゃんも一緒だ。すごく私、睨まれてるし、めっちゃ機嫌わるーい。

仲良くデートかな……


「カヲルくん、今朝退院早かったんだね。病院に電話したらもう既に退院されてるっていわれちゃったよ」

「ああ、携帯の件ですか?すみません今日届けようとおもって、今日の待ち合わせの時間を確認させていただきました」

「ごめんね、わざわざ…。」

「ていうかなんで名前さんと加持さんが一緒なのー?」


今にも噛み付かれそうな顔で言われた。ごめん、アスカちゃんが好きなのは知ってるんだけれど……。

どうしよう、と思ってたらぽんと肩に手をおかれた。


「大人のデートをしようと思ってね。お前らだってデートだろう?」

「誰がこんな若白髪と!違うわ、加持さん、アタシはここの場所がわからないっていうからコイツにやさーしく道案内してただけなの!」

「若白髪じゃないんだけれど…」


苦笑いしてるカヲルくんがなんだか可哀想に思ってしまった。
だがしかし、ちょっと笑った。心でね。
声に出してたら後でチクチク姑のように言われるから。


「さ、セカンド帰るよ。邪魔したら悪いしね。」

「あ、カヲルくん、夜は部屋にいる?」

「ええ、多分いますよ。」

「じゃあ、後で会いにいくからよろしく」


そういうとカヲルくんは頷いて、アスカちゃんの腕をひいた。
じっと見つめていたら、途中水たまりに入りそうになったアスカちゃんをくいっと引っ張る仕草をした。

……カヲルくんのいいところは優しいところだけれど、
私にとって悪いところでもある。誰にでも、優しい。


「妬けるかい?」

「ええ、奥深くに眠るなにかが噴火しそうなくらいに」

「おお、そりゃ怖い。さ、そんなことは一度リセットして忘れよう。今日は俺に付き合ってくれよ。」

「そういう約束ですからね……どこいきましょうか。」


そして私たちはその場から離れた。







「アンタ気になる?」

「まァ、多少はね。」

「利害の一致!よし、加持さんと名前さんをつけるわよ!」

「そうくると思ったよ。やはりセカンドを誘ってよかったよ。」


こんな会話が繰り広げられ、彼が後ろで怪しく微笑んでいたのを
私は知る由もなかった……



「さて、今日は俺のおごりだ。好きなものを頼むといい。」

「って…、こんな高級そうな場所につれてこられても尻込みしてしまいますよ……。もっと庶民的なところにいきましょう。」

「そうかい?じゃあ、そこのおしゃれなパスタでも。女性が好きそうなデザインしているね。」

「それがいいです。さ、入りましょう!」


中にはいるとアンティークで思った以上におしゃれだった。
メニューも色々豊富で悩んでしまう。

うーん、あれも食べたいし、これもおいしそうだ……
なんて思っていたら目の前の加持一尉がおかしそうに笑う。


「……女子は悩める生き物なのです」

「いやはや、悩んでる君も可愛いなと思ってたら思わず笑みが漏れてしまっていたようだよ。」

「私はそんな見え透いたお世辞じゃなびきませんよ。それに私はカヲルくん一択ですから。」


そんな言葉を吐いた瞬間、加持一尉の顔つきが変わった。

多分真剣な話をするんだろうと感じ取り、メニューを置く。


「今日誘ったのはその渚くんの話だ。例えばの話だが、世界と渚くん。
取るとしたら君はどちらをとるんだ?」

「世界と……?」


ふいにこの前の停電の時のカヲルくんとの会話を思い出す。

―カヲルくん、何考えてるの?

―あなたには関係のないことです

ああ、なんか、私突っ込んではいけない場所に足を突っ込んでいるのかな?


「……私は両方取ります。」


なんだかこの答えが私らしく、そしてカヲルくんが喜んでくれそうな答えな気がした。
加持一尉はぽかんとしていたけれど、笑ってくれた。


「まぁ、なんとなくは気づいてるみたいだからな。深入りは禁物だ。」

「お互い様ですよ、加持一尉。好奇心は猫をも殺します。仕事かもしれませんが、
そうですね入ってはいけない絶対領域には入らないように…て私もか。」


仕事ならばやめればいいのに、恋愛となるとそうもいかないのが現状。
メニューの縁をなぞり、やりきれない想いをごまかす。


「なにより、渚くんは15歳だ。法に触れんなよ?」

「わかってますよ!それが一番痛いお言葉だ!」


パスタのセットを選び、ご飯を食べ終わった後は、二人でぶらぶらと歩いたり、
アイス食べたり、まったりしていたが
公園を歩いていたら突然「そろそろいいか」といい、加持一尉はくるっと振り返り、私たちが来た道を凝視した。


「もう出てきていいぞー。お前らも楽しめたか?」

「セカンド、ほら、やっぱりバレてたよ?」

「さ、さすが加持さん……」

「え、えー?!つけてきたの?!」


草むらからガサガサと出てきた二人。
どこぞの漫画みたいについてきてたのか…まったく気付かなかった…


「そんな、カヲルくんが私達が気になって…」

「いや、アスカ、お前だろう?言いだしたの。渚くんが言い出すってことは想像できないしな。」

「むー……」


確かに想像出来ない…むしろ追跡してる人をニコニコとしながら後ろからついてきそうだ。
うん、きっと道中はそうだったんだろうな…


「さて、おじさんは交代しようかな。渚くん、名前ちゃんをよろしくな。さ、アスカ、行くぞ。」

「え、私とデートしてくれんの?!やっりー♪じゃあねーん、フィフスと名前さーん。」


先ほどまでとはうって変わって、上機嫌で加持一尉に腕を絡めその場を去っていくアスカちゃん…。
君はゲンキンだなぁ…。

とりあえず、足が疲れたので近くのベンチへと座る。


「ていうか聞いてよ、カヲルくん。加持一尉ってこの前の食堂にあったとき勝手に私の携帯を勝手に操作してたんだよ!そして私の携帯番号を勝手に調べてたの!ひどいよねー」

「知っていましたよ。」

「知ってたんかい!それに私がカヲルくんが無事だったことで泣いてた時の約束もしてないんだって。ホント、食えない人。」

「そうですか。」



………あれ?もしかして不機嫌?
隣に座るカヲルくんの顔をみてみるとこちらを全くみていなかった。

うん、これ完璧不機嫌。
もしかしてヤキモチをやいてくれたのかな、と思うと嬉しくなり
ていっとカヲルくんの頬に指をさす。

おお、驚いた顔をしてる。


「いだだだだ…!」


無言でニコニコしながら頬で指を押し返してきた。
地味に痛いわ!ていうか笑顔なの超怖くてすっごいシュール!

指を離すとカヲルくんは立ち上がり、お尻についた土埃をパンパンと落とす。


「さ、暗くなってきましたから、どこか御飯食べに行きましょうか。退院祝いです、何かおごってください。
それに今日、加持主席監査官とのデートの途中、何か買っていただろう?
あれって僕にですよね」


とびっきりの笑顔で手を差し伸べられて参りました、と心の中でつぶやいた。


……この前のリベンジで晩御飯までパスタになったのは蛇足なお話。

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