性格悪年下彼 | ナノ


▽ 12


―ざっと、体温が下がった気がした。


つい昨日、四号機が到着し、ハーモニクステストをしたばかりだった。
本日、昼食後に警報が鳴り響いた。

近くで御飯を食べていたチルドレン達は呼び出され、駆け足で私の横を過ぎていく。
大丈夫かな…と思い横目で見ていた私。
少し気になり、状況を聞いていた。


「―初号機が第12使徒に取り込まれ、助けにはいった四号機も同じく取り込まれた。空間ごと、持って行かれたらしい。」


三課に戻り、書類のまとめをしていたら、追加の書類を持ってきた上司が辛そうに私に教えてくれた。


「アンビリカルケーブルも引き上げたらしいが先はなかったらしい。生命維持モードに切り替えていれば、16時間はもつが……
零号機弐号機共に後退命令が出て、現在赤木博士が指揮をとっている。解析もしているらしい。…国連も動きだした。忙しくなる。大丈夫か?」


大丈夫か、なんて、知ってるじゃないですか。
私は大人なんですよ?


「だいじょうぶじゃないで…す…!」


ぼろっと私の目から流れていた。
涙は私の目にいつの間にか溜まっていたらしい。

こんな事、あるかもしれないとずっと考えてた。
いつかくるかもしれない未来に覚悟は決めていたはずなのに、
そんな未来はずっと否定してきた。

それに彼が死ぬはずなんてない。なんて心のどこかで思っていた。
そんな気がしていた。

きっとこの使徒戦が終わったら意地悪で優しい顔付きで
私に何かいってくるんだって……


「大人ってなんて無力、なんでしょうね。変わってあげたい、なんでチルドレン達に世界を託し、てるんですか……明るい未来を見せてあげるのは大人の役目なのに…っ!」


両手で両目をふさいで、涙を一生懸命とめようとしても
暗い空間の中で彼の顔が浮かび、余計に止まらなくなる。

なによ、私まだカヲルくんからの気持ち聞いてないんだからね…?


「明日は休みをとれ。今は少しでいいから俺たちの戦力になってくれ」

「……はい」


今から16時間後……
私はどんな気持ちでそこにいるのだろうか。

今以上に泣いているだろうか。
彼に愛を叫ぶのだろうか。


しばらく、戦力にはなれないような仕事をしていた。
けれど上司は文句もいわず、作戦部とも連絡をとってくれている。
私もこんな状態で一人でいたくはない。


「……お前、いつまで仕事するつもりだ…。今日はここまででいい…」


いつの間にか何時間もたっていて、気づくと私と上司しかいなかった。
おつかれさまでした、と呟いたつもりだったけれど、私の声は出ない。

上司に頭をさげて寄宿舎へともどる。
自分がふらふらと歩いてることも気づかず、色々な場所にぶつかる。
痛い、何かにぶつけた。痛い、何かで切った。
痛い、頭も痛い。痛い、貴方がいないと感じてしまったから、とても痛い。


―ヴー、ヴー……


重低音が響く。私の胸ポケットから。
歩けなくなって、しゃがみこんでいると携帯がなったらしい。

携帯を見てみると、どこか知らない番号。
声もでないけれど、出てみた。


「よお、名前ちゃん……随分元気ないな。いや、元気があったら驚きだけれどな。」

「……」

「返事も返せないか。いや、大丈夫だ、出てくれただけでよかったよ。キミにこの情報を伝えれる。……碇シンジ、そして渚カヲル、両パイロットの機体も回収した。二人に命の別状はない。
これから使徒戦が…いや、もう使徒は殲滅しているから『お片づけ』だな。それが終わり次第、中央病院にいくらしい。……二人の姿みにいくか?俺が迎えにいくが。」

「…い、き、てるん、ですか?」

「ああ、生きている。」

「よか、よかったあぁあ……」


自分が大人であることを忘れ大声で泣いてしまった。
電話口で加持一尉がなにかいっていたけれど、もう聞いていられなかった。

気づいたときには加持一尉の車で使徒戦が行なわれていた場所であろうところに立っていた。

ヘリコプターは辺りを照らすようにグルグルと旋回し、
エヴァの初号機が寝かせられ、車に運びだされていた。
四号機や他の機体はなく、チルドレン達はテントの方にいた。

その中心であるところが動くと固まりになって動く。

見つけれた、遠くからでも目立つ、あの銀の髪。

ぐったりとうなだれ、顔は見えないけれど、隣の人と肩を組み自分の足で歩いている。


「こういうときって、なんていったら分からなく、なりますね。よかった、本当に……」

「そうだな…、こんなときは全てに感謝するべきだろうな。」

「加持一尉ありがとうございます、神様ありがとう、……生きててくれてありがとお…っ!」


また号泣してしまった。
加持一尉が肩を優しく抱いてくれたので少しだけ胸を貸していただいた。


そして、私は部屋まで送ってもらい、少し泣いてから眠りに落ちた。

次の日、カヲルくんが入院している病室まで来た。
幸いにも人体にはなんら影響がなかったらしく、明日には退院できるということだったのだが、ちょっといてもたってもいられなくなり、彼に会いにきました。


「……寝てる。」

熟睡してるらしく天使の寝顔を晒しながら、胸を上下に揺らす。

―生きてる。

そっと、揺れている胸に手を置こうとした瞬間、
手をつかまれた。


「っ?!た、たぬき寝入りだ!」

「セクハラされるのを見逃したくなかったんです…ってなんですか、その顔……」

「お前のせいだ、大馬鹿者」


私も自分でびっくりするぐらいの顔や目の腫れっぷりだった。
最初鏡でみたとき、行かないでおこうと一瞬迷ったくらい。


「…僕、『彼』の中に入ったとき、死んだと思ったよ。どうにも出来なくてさ。
暗い、赤と黒の世界に閉じ込められて。シンジくんもいないし、動けないし。
何故か老人がプリプリと怒り出すんだよ…頭の中で…」

「ろ、老人……?」


何か幻覚でも見せられたんだろうか……それってなんか気がぬけそうだなぁ……


「気を失いそうなとき、君を見た気がする。背中を丸めて、子供のように声をあげて、なにかを叫んでいた。僕の名前が聞こえたような気がして、ああ、名前さんが泣いているんだって理解した。」

「……」


すっと白い指が私のすっかり乾いている目元をかすめる。
弱弱しい声にまた、なにかの感情が押し上げて目元までくる。


「今よりかは、酷くない顔だったよ…ふふ。でもね、これは、死ねないなって強く思ったよ。なぜかね。……名前さん、少し抱きしめてもいいかい?」

「うん、もちろん」


少年の背中は私がこの前背負ってもらった背中と同じはずなのに、
何故か少し小さく感じた。



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