▽ 10
長野へと向う車にのりながら、「起動実験が終わったらどこ行こう」という考えでいっぱいだった私です。
終わったらカヲルくんも時間あるかな、あったらどこかに誘おう。
長野…軽井沢?って遠いわね……?
なんかそば食べたくなってきた…。
「つきましたよ」
どうやら考え込みながら寝ていたらしく、ゆさゆさと揺り起こされてしまった。
あ、よだれ……
別のバンに乗っていたカヲルくんも降りてくるのが見えた。
まぶしそうに目を細めていた。
そしてこちらに気づかずそのまま職員と話しながら前へと進んでいった。
私も仕事をしなくてはいけないので書類をバッグから取り出し抱える。
一課と二課の役割を私がしないといけない為にすごい量の書類になった。
畜生、渚カヲル、後で振り回してやるから覚悟しておけ……!
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「名前さん」
少し遠くから名前を呼ばれた。
この場所で下から呼ばれるのは彼しかいない。
ゆったりとしたスピードで歩いてくる
黒いプラグスーツのカヲルくんだった。
「今日、全然見かけないからすっぽかしたのかと思っていたよ」
「仕事をすっぽかすほど度胸はないわね。ねえ、その下全裸?」
「あはは、それもそうだ。ちなみに全裸だよ。……上司からセクハラを受けた時ってどこに相談するんだろうね?」
「上司じゃないし!階級的にはそっちが上でしょ!」
「あ、じゃあ部下からだったらどこに相談するんだい?」
「勘弁してください!!」
どんどん会話のボリュームが上がっていく。(主に私のツッコミのせいだけれど)
このままでは私の人からの価値がどんどん下がっていく!
「そういえば、管理部二課からどうして総務局の三課から選んだのか聞かれたんだけれど、何故か褒められたよ」
「褒め…?!まままさか私が仕事ができるとかのお褒めの言葉?!」
「いや、君自体というより『三課』ということだろうね。」
あー、そういう事か。
三課は便利屋だもんね。そりゃ仕事的には楽になるからね。
「どうして三課だとよかったんですか?僕が聞いてもこっちの話だから気にしなくていいよとはぐらかされてさ。」
「一課、二課はいわばプロフェッショナル。で、私たち三課は、うーん、バックアップ的な。一・二課の仕事はある程度はできるのよ。
まぁ、もちろん二つの課から比べたら能力的には低いけれどね。
だから三課は雑務をこなしてんのよねー。多分その件で人間が二人になるより一人にまとめた方が話も早く済むってことで褒められたんじゃない?」
「なるほど、納得しました。」
じりじりと頭が焼けて痛くなってきたので日陰に入ろうかなと思った瞬間にカヲルくんが呼ばれる。
どうやら起動実験の準備が整ったようだ。
すぐ行きます!と少し大きな声を出してカヲルくんが答えると私の方へいい笑顔で振り返った。
……ん?なんだか嫌な予感が。
「僕がエヴァにのり、合図します。名前さんはそれが確認出来次第、罰ゲームに言っていたことを実行してください」
一瞬のフリーズ。天使のような微笑みを向けられたことじゃなく、何の話だっけ?と考える。
―罰ゲーム?
「は?!え!ちょ!待て!!」
気づいた時には既に遅し。カヲルくんはエントリープラグに片足を突っ込んでいた。
あいつ、とんでもねえ!!
今?!ここで?!皆が集まっているこの厳重体制の中で?!
「エントリープラグ挿入、LC.L注水……渚くん聞こえる?」
『聞こえます。』
「感度良好、おっけーおっけー、じゃあとりあえず四号機のどこかパーツを動かしてみて?自分の体のように」
そう指示が飛ぶと、少し砂を落としながら、右手がゆっくりあがる。
そのまま四号機の手の平を表に向けて、「どうぞ」とでも言わんばかりの動作でピタリと止まる。
―私に向けて。
「ほ、本気のようね……私は言い逃げする、言い逃げする……す、好きだあぁあ!」
大声をあげ、カヲルくんに届くように叫ぶ。
一瞬、皆が驚いてこちらを見る。
言い逃げしようと思ったのに皆の反応が早すぎて逃げる隙もなかった……!
「そんなに四号機やエヴァが好きなのか…?」という声に周りの皆が納得し、作業に戻る。
誰かしらんがありがとう!一生忘れない!恥ずかしさ的にも!
―さあ!もういいだろう、渚カヲル!なにか反応しろよ!
と思いながら睨んでいると、またゆっくり手が上がり耳元に四号機の手が……
「『え?』じゃねーよ!!聞こえてるんだろう!この中身真っ黒天使!」
自分が出せる猛スピードをだして届く上の範囲にキックを四号機にして私はその場をまた、走って逃げ出した。
後日談、あの後お腹を抱える四号機の姿があったとかなかったとか。