……私たちの未完成な物語/日常
奇跡は人の力で起こすもの、だというけれど。


「人は誰だって神様にすら頼りたくなる事だって、あるわよね。」


例えば、きっと誰もが一度はしたことがあるだろう。
多ければ年に一度はしている。

そう、


「なに突然語り出してんのよ。」

「いやあ、人が多いなって。この中の何人が神様から願い事を叶えてもらえるんだろうなーってさ。」


初詣。一年に一度はやってくる神様にお願い事をする日だ。
お願い事、といえば七夕の事を思い出すけれどアレは神頼みでもないし、
そもそも字の練習の為に書かせていただとかで効力はないだろうし。

神様もこんな大勢のお願い事なんてさばけないだろうなあ。
何人も神様はいるだろうけれど、私があったあのカミサマならば絶対に願い事を叶えるどころかスルーしそうだ。

ていうか「この子好みかもしんね!願い事叶えてやるから俺様のところへ来い!恋と来いをかけました!」みたいな事を言って人を殺しそうだ。アイツ、マジでふざけんな。


「アスカのお願い事って何かな?私が叶えてあげちゃう!」

「アンタに言ったらホントに叶えちゃいそうで怖いんだけれど。」

「お嬢様が望むのならばなんなりと。」


執事がやるように腰に左手を、右手を左胸に当てお辞儀をすると恥ずかしいからやめなさい!と怒られてしまった。
確かに人の目線が集まっているようだ。でもそれは私だけのせいじゃないんだからね?


「鐘を鳴らす場所までは遠いねェ……。」

「母、おんぶ。」

「綾波、遠くに行くとはぐれちゃうよ?」

「大丈夫、きっと苗字くんが見つけてくれる。」

「わざとはぐれた子は見つけてあげません。」


そういうとレイはしゅんと落ち込んだ。
私を万能な神だと思ったら駄目だぞぉ?

こんな豪華メンバーが集まれば、そりゃ人の目も集まるよね。
と渚くんを背負いながら思う。

しばらく行列に並んで話すネタもなくなってきた頃にレイが私とカヲルならどっちが攻めかという危ない話題を出した時に私達が賽銭箱の前に到達した。

アスカが鐘をならし、渚くんを下ろして皆で手を叩く。

私の願いは……


――皆が幸せになりますように。


ただそれだけだ。誰も死なない、誰もが幸せになるように。私が望むのは誰もが主人公になって素敵なストーリーを作ってほしいんだ。


「随分真剣に祈ってんのね。端に避けるわよ。」

「あぁ、了解。ごめんごめん。」


端に避けて階段を降りていくとアスカは私の脇腹を小突いてきた。


「アンタの願い事なんだったの?……アタシ、名前みたいに叶えてあげるとは言えないけれど、手伝ってあげてもいいわよ。」


ぶっきらぼうに彼女は唇を尖らせ、私の方を見ずにぼそぼそというものだから可愛くて思わず吹き出してしまった。

笑うなっ!と足を踏まれそうだったのでサッと足を退けた。


「私のお願い事は皆を幸せにしたいなって。」

「一夫多妻!?」

「カヲルも含めてね。」

「老若男女?!」

「だから、今年も側にいてね。アスカ。」

「……しょうがないから付き合ってあげるわ、名前のお願い事にね!」


アスカは年相応な笑顔をニコリと浮かべると上機嫌で前に歩く皆のところへと歩いていった。

皆、生きて幸せになりましょ。


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