『たまには食事を部屋で食べませんか?食事は僕がつくります。』
突然のお誘いだった。
私の携帯が通知をお知らせしてくれて、いつものクセで携帯を取り
今仕事中だという事に気付き、周りにバレないように開いたらそんな内容だった。
「最近、やたら私に優しい。」
「そうかそうか、良かったな。俺は厳しくしてやろうか?」
「ひい!すみません!すぐ仕舞います!」
「返信してからしまえよー。」
「す、すみません。」
上司のお言葉に甘えて急いで返信をする。もちろん返事はオッケーに決まっている。
彼の手料理は朝昼の軽いものは食べたことがあるけれど、
夜ご飯は実は食べたことがなかった。
どうしよう!顔がにやけてしまう!
「……そんなこんな考えてたら顔がニヤケ顔から戻らなくなりました。」
「三課の方から変な目で見られませんでした?」
「頬をぐにーっとつまんでたから大丈夫。」
「ある意味、全然大丈夫じゃない気が……。」
部屋に戻ると彼はエプロンを着てシンクの前に立っていた。
ああ!ほら!ニヤけるの止まらないじゃない!!!
また緩む頬を力強く引っ張ったらぶふっと吹き出して顔を背けられた。
……まさか笑わせれると思わなかったからちょっと嬉しい。
「そういえばそのエプロンどうしたの?」
「シンジくんに借りました。ちなみに料理もシンジくんに教わってきたので、失敗はないかと思います。」
「仲良しだねえ。その光景を見たかった。」
寝室にいき、部屋着へと着替えていると何かが焼ける音とともに香ばしい匂いが漂ってくる。
袖を通す時間もいつもより早く、カヲルくんが居る場所に戻ってきた。
「この香りはお肉だね!」
「アバウトすぎますね。」
料理を覗こうとすると、ひょいと覗いた反対側へとフライパンを退かされる。
フライパン側に移動するとまた反対へ……
それを二回ほど繰り返すと少しぶっきらぼうに、かつ少し照れながらあっちに行っててくださいと言われてしまった。
残念に思いながらソファに寝転がり美味しそうな匂いに包まれながら携帯をいじっていたら、いつの間にか寝ていたらしく「名前さん」と声をかけられながら身体を揺らされた。
「あ、……ごめん、寝てた?」
「時間がかかったので、僕としては助かりましたけれどね。」
時計を見てみるとあれからいつの間にか2時間30分とたっていて
いつもならもうとっくにお風呂とか入っている時間だった。
でも、そんな時間をかけて作ってくれたことが嬉しくて。
テーブルの上を見ると分量を間違ったのか、二人では食べきれないような豪華な料理たちが並んでいた。
「凄!これ全部手作り?!」
「シンジくんに教えてもらったものを色々作っていたらこんな量に……。」
「明日は二人ともお弁当だね。じゃあ、早く食べようか!」
「そうですね。」
手で乱れた髪を梳いてから携帯を取り出す。
これは食べるのがもったいなさすぎる。ので写真に残しておこう。
「ほら、早く食べますよ。」
「ちょっと、手で隠さないでよ!恥ずかしがり屋め!」
「食べないんですか?」
「食べます!食べます!」
二人でいただきます、と手を合わせ自分の好物そうなものを手に付ける。
「ふああ?!なにこれ!やば!ウマっ!え、これは?!やわ!とろける!」
「……喜んでいただけるのはいいのですが、なんでしょう、なんか言葉のレパートリーがないですね、としか言い様がないような。」
「この茄子はしっかりと味ついてて美味しいし、ごまの食感がいいし、ネギのアクセントもいいね!ていうか美味しいしか言葉が出ないよ!!」
実際そうなのだ。シンジくんから教えてもらったとは言っても
それをそっくりそのまま再現なんて難しいんじゃないかな……?
さらにはレシピとか無しの記憶力だけで!……なんだか自分の女子力の無さに泣けてきた……。
「嫁に来て欲しい。」
「嫁はお断りします。」
「え!?じゃあお婿さんだったらいいの?!」
「……言葉の綾です。」
「ちぃ!そういえば今日はなんでまた料理を?」
そういうと彼の箸はピタリと止まる。
何か地雷を踏んでしまったのだろうか?
言いづらそうにもごもごとしている彼をジッと見つめる。
カヲルくんは諦めたのか、ため息を一つ漏らすと口をひらいてくれた。
「……記念日なんですよ。そのヒトは覚えてないので僕だけでもお祝いしたくて。」
「何の?」
「恥ずかしくていえません。」
誰かと結ばれた日、とかなのかな?そう思うと胸にモヤモヤが少しよぎる。
でも、悪い気がしないのはなんでだろう。
カヲルくんを見ると優しく微笑んでいるもんだからそれ以上は聞かない事にした。