ふとした瞬間に彼は私に気があるんじゃないだろうか?と思う時がある。
まあ、それも多分中学生なりの思春期で恋だとかをしてみたいから身近な異性を恋愛対象に選んだだけかもしれないし、若いときの好きというのはわりと長く続かないものだ。
渚カヲルという人物は顔も良ければ声もよし。
スタイルもよければ頭もよしとほとんど非の打ち所が無いような人なのだ。
その完璧とでもいえるような人物が私だけには構って欲しいのか意地悪をしたりするんだ。
特別、とも言えるその立ち位置に私はいつでもドキドキさせられている。
だがしかし、私と彼は所詮大人と子供。非戦闘員と戦闘員。監視役と監視される立場。
一生交わることのない線だ。
「ときめきが欲しい。」
「ときめきなんて役に立てるときがくるんですか?」
「愛は時には奇跡をうむ!」
「じゃあ、僕を愛する心でこの部屋、早く片付けてくださいよ。」
「それただのパシリ!」
今日は二人とも休みでどこかに買い物でも行こうかと誘ったところ、
カヲルくんは待機命令がでてしまい部屋にいないといけなくなった。
彼は買い物行ってきていいですよと言ってくれたけれど、おいていくわけにもいかず、何をしようかと考えていたら掃除をしましょうと提案してきた。
……もちろん、私は断りましたよ?
だってせっかくの休みなのに!
「という訳でゴロゴロしようよ。」
「今しかできない事だってありますよ。ほら、拭き掃除だけでいいですから。」
「むーん。」
渡された掃除用具はクイックルワイパーだった。
どっから出したの、貴方。
カヲルくんはもう自分の担当の掃除をしているらしく、ゴミを捨てていったりしている。
「ねえ、カヲルくん。」
「なんですか?」
「見返りみたいなのって必要だと思わない?」
「僕からの愛なんてどうですか?」
「ぜってえあげないくせに!」
「じゃあ終わったらいい子いい子してあげますよ。」
「う゛。」
それはちょっと魅力的かもしれない。
ただ、今カヲルくんゴム手袋してるけれどその手で撫でるのはやめてね。
まあ、特にやることもないし掃除を真面目にするかと黙々とやっていると意外と掃除が楽しくしばらく細かいところまで拭いていたらいつの間にか時間がかなり経過していた。
「名前さん、そういえば昼ごはんどうします?そろそろ食べますか?」
「いいね!お腹すいた!」
「じゃあ今日は名前さんの好物にしましょうか。」
おや、彼は前に私が好きだと言っていた食べ物を覚えててくれたのだろうか。
しばらくして出てきた食べ物はバッチリ好きなもので。
ニヤニヤ笑いながら食べているとカヲルくんが少しジト目になりながらこちらを見てきた。
「なんですか?」
「んふふ、カヲルくんは私の事好きなんでしょ?わかってるってぇ!」
「そうですけれど?」
二度、またたきをして。一度息を吸い込んで。
食べ物を見て、また彼を見る。所謂二度見だ。
カヲルくんは悪戯が成功したかのようにペロリと舌を出して笑った。
その笑みですら好きかもしれないなんて、私かなり重症だ。
「顔真っ赤ですよ。」
「だだだだだって……!意地が悪い……。」
ああ、そうだ、と声が聞こえて彼が私の頭を優しく撫でる。
……私の心臓にこんな緩急つけた攻撃をするなんて、ホントに彼は意地悪だ!