……性格の悪い彼は年下の彼/日常
「授業参観?」

「そう。別に知らせなくてもいいかなと思ったのですが、一応名前さんは保護者ですからね。」


カヲルくんから渡された白い紙を見るとタイトルには授業参観のお知らせと太い文字で書かれていた。

日付を確認すると当たり前だけれど平日で……、これは……、休みが取れる日か……?


「名前さんは業務もあることですし、忙しいと思いますので不参加でもいいかと。」

「なに言ってんのよ。これを私に見せてきたって言うことはきて欲しいってことでしょ?行くわよ。職務放棄してもね!」

「それはどうかと……。」


私を頼ってきてくれたのにカヲルくん好きーな私が断るなんてことしないわ!なんてキメ台詞
を言おうと顔を上げたら突然にくしゃみをしてしまいすべて台無しになってしまった。

顔をあげたせいでカヲルくんにも唾が飛んだのだろう。サッと避けやがったコイツ。


「なんか傷つくんだけれど、その避け方。」

「誰だって避けるだろう?」

「愛してる人の唾くらい受け止めてよね!」

「誰が誰を愛しているだって?シンジくんかな?」

「そこでシンジくんと愛を絡めるあたり歪みないな貴様!」


まあ、じゃれ合いはこの辺にしといて……、制服に着替えるために座っていたソファから腰をあげるとどこにいくんだろうという視線を向けられた。


「可愛いカヲルくんのために仕事終わらせてくるのよ。今の仕事量だと休みが取れるか微妙だしね。」

「え、でも今さっき帰ってきたばかりなのでしょう?そんな悪いですよ……!」

「悪くないよ。これが大人が子供にしてやれることなんだから。」


そういってふわふわとしている彼の頭に手を置いてやさしく撫でると彼は「子ども扱いしないでください」と冷たく振り払われた。
はっはっは、照れるな照れるな。


「じゃあ行ってくるね!」

「無理だけはしないでくださいね。」


私はカヲルくんなりの行ってらっしゃいを背中に受けて三課へと戻った。







正直、僕は彼女だったら断らないだろうと確信していた。
彼女の性格だ。絶対に無理しても授業参観にくるはずだ。


「僕もそれをわかっていて彼女にプリントを渡すから意地が悪いよね。」


なんとなく彼女が座っていたところに座ってみるとそこは体温を感じられるほどには暖かくなっていなかった。
ホントに帰ってきたばかりだったのだろう。悪いことをしてしまった。
今から仕事を始めるならばきっと今日はもう帰ってこないだろう。
夕食でも今から作って持って行こう。

そう思い僕は立ち上がった。

……それからここ数日は彼女は帰ってこない日が多くなった。会える時間も少なくなり、会ったとしても何処かに魂を飛ばしているような名前さんにしか会えなかった。

僕のできることなど少しで、彼女のために冷蔵庫の中の栄養ドリンクを切らさないことくらいだった。

そしてしばらくして彼女にとっての地獄のような日々が終わりを迎えようとしていた。
授業参観の日だ。

僕はみんなと同じように後ろをそわそわとしながら見ていた。
保護者がくる、ということはこんなに心騒がせるものなのだろうか。
不安や、何をしていればいいだろうとか、いつもどうやってこの休憩時間を過ごしていただろうかとか余計なことばかりを考えてしまう。

特に僕の場合、彼女はまがりなりにも僕が好意を寄せている異性なのだ。
下手なところは見せられない。
少しだけ姿勢を正して、また後ろを振り向く。
……こんなに長く感じた休憩時間はなかっただろう。

そして結局、授業が始まっても名前さんの姿は見当たらなかった。
それもそうか。昨日も帰ってきていなかった。忙しいのかもしれない。
総務課というのはすべてやりくりをしなきゃいけないしね。
残念だ、と思うと同時になぜかどこか「やっぱりね」なんて心の隅で思っていた。
……いや、そう自分を納得させようとしていたのかもしれない。

授業が始まった後も両親が何人か遅れて教室に入ってきたけれど僕は振り向かなかった。
入ってくるたびに気になって後ろをむくなんて、それこそ子供だ。
それにそんなところを彼女に見られたらどんな顔をするだろうか。
にんまりと厭らしい笑みを浮かべ、「来たよ、うれしいでしょう?」と目で訴えるに違いない。安易に思い浮かべれたその顔に若干苛立ちを感じた。

ったく、そもそも授業が始まる前に来ないのが悪いんだ。と思っていると後ろのほうから小さいくしゃみが聞こえた。
先生がしゃべっていたので教室はほとんど無音に近いその空間に聞き覚えのあるくしゃみ。
僕はそのくしゃみを聞いてイライラしていたものがお腹の辺りにすとんと落ちて落ち着く感じがした。

仕事、ちゃんと終わらせてきたんだ。僕のために。この日のために。

−−ああ、僕愛されているな。

なんておもってしまったら笑いが止まらなくなってこらえるのに必死になり授業を聞いていられなかった。







「カヲルくん、授業笑って聞いてなかったでしょー?何に笑ってたのよ。先生の「あー」の数でも数えて笑ってたの?」

「いや、名前さんのくしゃみが変なくしゃみだったので。」

「失礼な!!」


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