……性格の悪い彼は年下の彼/甘
(いつもそうだった。私は見送るだけなのだ。)
(心配しかできないただの保護者。)
(いつか彼の支えになれたらいいのに……。)

カヲルくんが珍しく勉強のわからないところがあるというから、お姉さんにみせてみろ、なんて胸を叩いて教材を借りてみるとわからない数字の羅列が。
……なんだこれ呪文か?と呟いたところカヲルくんから奪い取られ、
こう解くんですよと逆に教えられ結局は「ああ、教えてるうちに解けました。ありがとうございます。」となんだか素直に喜べないような言葉をいただいていた麗らかな昼下がり。
そんな休日の日に警報がけたたましく鳴り響いた。


「使徒ですね。」

「またなの……?だって数日前に戦ったばかりよ?」


教材を机に置くといってきます、と私のほうも見ずにサッと走りさっていった。
世界の命運を握っているのはあの背中なのだが、やはり15歳の背中という小さな背中にそんな運命は重すぎて、行かないでとここに引き止めたくなる。

私はただ彼が無事に帰ってくることを願うことしかできない。


「あ、携帯が鳴ってる……、もしもし?え゛、出勤ですか?今からですか?……しょうがないですね、二時間ですよ?それ以上かかるなら一時間につき昼食おごりが待ってますからね。」


三課からの電話を切り、制服へと着替える。
カヲルくんが戦場で戦うというならば、私は内側で戦おう。
彼らが残すこの数字の記録は大きければ大きいほど頑張ったという証拠だからね。

……額が大きすぎて顎が落ちそうになるときがあるけれど……。

職場に行き、カタカタとキーボードにただ数字や文字を打ち込んでいると約束の二時間で返してもらった。
上司よ、私にそんなに昼食をおごりたくなかったのか。心と懐が狭いな。

三課をでると施設内に状況終了のアナウンスが流れる。
状況終了ということは……、使徒を倒したの?
今回の使徒は確かエヴァ三体出撃の作戦だったはず……。

それほどの戦いであったから、かなり疲労して帰って来るだろう。
足早に今しがた帰ってきたであろう彼らの元に急ぐ。


「あれ……、カヲルくんは……?」

「あ、名前さん、……それが……、」


帰ってきたチルドレンの中に想い人である彼が居ないことに気づく。
割と平気そうに立っているシンジくんから話を聞くと今の使徒戦でカヲルくんは病院のほうへと運ばれたらしい。
そのことを聞いて私の身体の体温が一気に下がる気がした。


「すごい……、叫び声だったから……、聞いたこともないような。」

「バカシンジ……、心配させてどうすんのよ。名前さん、アイツのことよ。ピンピンしてるわ。ただ検査入院なだけ。あと叫びすぎたみたいでどうも声をやられちゃったみたいだから。」

「あ、ありがとう、アスカちゃん、それとシンジくん。あと遅くなったけれど任務お疲れ様……、ゆっくり休んでね。」


そう声をかけるとシンジくんはお疲れ様でした、と声をかけながらアスカちゃんの腕を自分の肩に回し、そして私の横を通り過ぎていった。
後ろで「気安く触ってんじゃないわよ!」といった声が聞こえたような気がしたけれど今はそんな場合じゃなかった。

私も病院に向かわなきゃ……。命に別状はなくともカヲルくんの容態が気になるし……。

病院について受付にカヲルくんの名前を告げるとすぐに病室を教えてくれた。
彼の病室につき、ノックをした後にドアを開けて中へ入るとカヲルくんは起きているようだ。
返事がなかったから寝ているものだと思っていたけれど、よく思い返してみればそういえば、叫び声で喉を酷使して声が出ないと言っていたっけ。

……どれだけ痛かったのだろう。この飄々として痛みにすら耐える少年が声を上げるなんて。
相当の激痛だったに違いない。まるで私にも痛みが移ったかのようにじんわり泣きそうになってくる。

ベッドへと寝転がる彼の近くに座ろうと窓際に立てかけてあった椅子をもって組み立ててからその上へと腰掛ける。
入ってきたのが私と気づいたのかこちらの方を見ると弱弱しく手を伸ばしてくる。

私はその手を握ろうと同じように手を伸ばす。
ぎゅっと握られるその手に少しだけ安堵を覚える。彼の手はまだ、暖かい。
こんなことをするくらいだ。彼も不安に思っていたんだろう。
少し、茶化してみるか。


「どうせ私がそばにいてほっとしたとかそう思っているんでしょう?」

「っ!……〜〜っ。」

「えっ、嘘…っ、嘘って言っていいんだよ??!」


図星だったのか顔を赤くする彼に、それが事実だと知ると思わず私も顔を赤くしてしまった。
なによ!いつもみたいに生意気な口を叩いてよ!


(不意をつかれたから顔に出てしまった。)
(声が出たらいつもみたいに彼女を茶化し返すのに。)
(本当のことだとバレてしまった。)
(−−ああ!恥ずかしい!)


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