ちょっと前にカヲルくんはチョコレートが苦手だと言っていた。
それまたなんで?と聞くと彼は言いづらそうに
「昔胸焼けをおこしてしまって」と苦笑いをしていた。
そのモテ発言をしていたカヲルくんがお菓子の、しかもチョコレートの袋を持っている。
思わず手が止まってしまった。
「なんですか?仕事を部屋にもって帰ってきて。終わらないんですか?」
「その件については触れないで欲しい。ていうかカヲルくんってチョコ苦手じゃなかったっけ?バレンタインに苦い思い出があるとかで。」
甘いものをもらって苦い思い出とは。なかなかにとんちが利いた言葉だったな、と思わず自分でうんうんと頷いてしまった。
「何に一人で納得しているんですか。痛い人アピールですか?」
「風当たりが強い。」
「仕事、忙しいんですね。」
「うーん、まあね。」
元々忙しいというのはあったけれど、ここ最近はカヲルくんの監視役というのもあって仕事が貯まり放題なのだ。
上司は私に気を遣って仕事を回さないようにしてくれているけれど、それもまたなんだか悪い気がするし。
考え事をしていると甘い匂いが私の鼻をくすぐる。
ちらりとカヲルくんを見ると彼がチョコレートを食べていた。
「ああ、そういえば僕が苦手なのになぜ食べているかって質問でしたね。」
「あはは、忘れてた。何で何で?」
「シンジくんからもらいました。」
「君は期待を裏切らないな!!」
だよね!君そんな性格だもんね!
かなり納得のいく理由、かつそんな事かよっていう理由だったので脱力してしまった。
あー……、仕事したくない。そういえば、疲れた身体には甘いもの、だったっけ?
「甘いものほしい。カヲルくん、そのチョコレート欲しいな。」
「名前さん、はい、あーん。」
まさか彼からこんな言葉が聞ける日が来るとは思いもしなかった。
え、明日雪?夏に雪降っちゃう?
「いや、きっとこれはあーんからの自分で食べるパターンとみた。君の事はよく知っている!」
「早く口を開けないと溶けたチョコレートがついた僕の指まで突っ込みますよ?」
「すいません、開きます。」
ドキドキと心臓が高鳴り、開いた口にまで鼓動が伝わる。
まるで唇に熱があるような……。
その唇にチョコレートが少し触れ、コロリとキューブ状のチョコレートが口の中に入ってくる。
ふわっと口の中がチョコレートの匂いに包まれて、噛み締めるとかなり甘い。
「ふふ、僕のチョコレートのお味はどうですか?」
「聞き方がやらしいぞ少年ッ!!」
「甘いのが欲しかったんでしょう?お望みのものですよ?」
「甘い雰囲気まで一緒にくれるとは思わなかったよ!!」
おかげで心臓に大ダメージです!