その日は晴れやかな日だった。
とても晴れやか過ぎてこの暑さを恨みたくなるくらいに。
じりじりとやける肌が少し痛く感じ肌をこする。
「おまたせ。」
「うわ!」
首にひやりとしたものが当たって背中をのけぞってしまう。
後ろを振り向くと少し大きく目を開いた名前が立っていた。
「何で君まで驚いてんのさ。」
「か、カヲルくんの大きな声初めて聞いたかもしれないって思って……。」
そうだったかな?と首をひねったけれど思い出せはしなかった。
どうぞ、と彼女の手から飲み物を渡されたので受け取ると缶の周りについていた水滴が僕の手を伝って下に落ちる。
「毎日毎日こう暑いとしんどいねー。」
「しんどいって?」
「うーん、嫌になるとか面倒くさいとか?」
「なるほど……、しんどい。宿題しんどい。使い方合ってる?」
「そうそう!ばっちり!!」
彼女はまるで大当たりだと言わんばかりに拍手をする。
花が咲きそうな程の笑顔も一緒に添えて。
名前は褒め方が上手いンだよね……。
「でもカヲルくんが知らなかったって事は造語なのかな……?」
「僕が単に知らなかったってだけじゃない?」
「……あ、でも調べてみたら関西の方言って書いてある!そうなんだ……、私も勉強になりました。」
「はは、なにそれ。」
名前が手を合わせて僕を拝むようにしてきたからちょっと笑ってしまった。
缶ジュースを開けるとプシュッと小気味のいい音が漏れる。
喉へと流し込むと炭酸が喉を駆け抜けて暑さで無くなっていた水分補給の他になにかを満たしてくれるような感覚になった。
「ぷはー、おいしい。なんだかこうやって何気ない日々を過ごすのもちょっとした幸せを感じるよね。」
「幸せを?なんで?」
「うまく言えないんだけれどさ、やっぱりこうやってしゃべれる人がいてくれるから、かな?死んでたらカヲルくんともお話できないしね。」
――ここ、どこだ?なにをしてるんだ?
手、赤い。弐号機、赤い。
――「ちょ、ちょっと待ってよ……、嘘、だろ?」
――『いない。ねえ、どんな気持ち?』
彼女の「死」というキーワードによってあの光景が僕の頭をよぎり、僕は顔をしかめる。
もう二度と悲劇を繰り返すものか。
缶を強く握りしめ、そう心に誓う。
「ねえ、カヲルくんはどういう時に生きてるって感じる?幸せに感じる?」
「……。」
前の君も同じような事を訪ねて来たよ。
……あのときの僕は「幸せ」自体が何かわからなかったんだけれど。
いまなら、少しだけだけれどわかったかもしれない。
君が教えてくれたんだ。
「君と同じかもしれないね。」
君と一緒に同じ時間を歩んでいける。それが僕が幸せという感情を抱ける条件。
「やっぱりこうやって生きて行くことが幸せだよね!」
「でも明日世界が滅びてしまうかもよ?」
なんて僕の意地悪な言葉に一瞬だけポカンとなったあとに名前は顔をくしゃりと歪ませて幸せそうに笑った。
「ふふ、カヲルくん、変なの。そうなったらカヲルくんたちが頑張ってくれるんでしょ?」
「……あはっ。当たり前だよ。」
変かもしれないね。でも名前の笑顔見れただけで、なんだか不思議と心が弾むんだ。
だから僕は今度こそ君を幸せにして、僕も幸せになるんだ。