一緒にいることが当たり前みたいになっている僕たち。
名前が教えるときは目の前にいて、偶に教えるために身を乗り出す仕草が僕は好きだ。
たまに胸の方に目がいくけれど……。
「それでね、ここがこの文章にかかってくるんだよね。」
「どうして?」
「だいたいこの文章の時はその人の心情を求めなさいっていうのが多いんだ。カヲルくん……、こういうの苦手でしょ?」
「うん。苦手。あまりいい点が取れない。」
国語の教科はあまり得意ではない。
こういったのは心情やら感情やらが絡んでくる。何十年も外で生きているリリンのそれらを読み取るのなんて経験値が不足している僕には難しいことだ。
「理数系なんだね、カヲルくんは。」
「頭がいいってこと?」
「直接的だね。まあ、でも間違ってないけれど。」
名前はパラパラと国語の教科書をめくる。
その指を目でおう。細くて、握ったら折れそうな指。
僕の指とは違うや。
自分の指と名前の指を見比べてみると僕の方が少し骨ばっている。
触ったら硬そうだ。というか、触っても柔らかくはない。
あの指、触ったり触られたりしたら気持ちがいいのかな?
「ねえ、名前。」
「うん?何?わからないところでもあった?」
ぐいっと身を乗り出して僕の教科書を覗き込む。
やっぱりいい胸してるよね。
「あのさ、今度国語のテストでいい点が取れたらその手で撫でてよ。」
「……え、な、撫でるってどこを……?」
「ん?どこでもいいの?」
そういうと名前は一瞬間をおいて顔を真っ赤にさせた。
どこを想像したんだろう。名前は意外とそういった下世話な事の知識も富んでいるのかもしれない。
「頭だよ?」
「頭だよね!そうだよね!!で、でもそれって私でいいの?」
「センセだからこそ、だよ。」
僕が笑うと彼女もうれしそうに笑う。
よし……、本気をだそう。
後日、中間テストが行われ、もちろんそこに僕の天敵である国語が現れた。
まずは問題の文章を読む。
ここは……、近くに「彼」の心境があるからここかな……。と線を引き考える。
しばらくすると空白の欄がなくなり顔をあげた瞬間チャイムがなった。
いつもなら少し時間が余っていて寝ているのに……、なるほど、これがしっかりと勉強をするということだね。
テストを集めている人に渡して数日後、テストの結果が返ってきた。
僕はそのテストの用紙を持って、帰ろうとしていた名前のところへと向かう。
「センセ!点数いい点が取れたよ!」
「え?!ホント?!」
これもセンセがうまく教えてくれたおかげだ。そう伝えてもどうせ名前は僕の頭がいいだけだ、なんていうんだろうな。
でも僕は多分、少しでも名前の傍にいたくて君と一緒に勉強しているんだと思う。
そんなこと、恥ずかしくて口には出せないだろうけれどね。
「はい。」
「あ、……撫でるんだったね……。」
すっとしゃがむとおそるおそるといった感じで頭に手が置かれた。
ゆっくり手が動き、やがて慣れたのかぽふぽふと僕の頭を軽く叩く。
……それじゃ叩いてるよ、なんて思ったけれど、やっぱり気持ちがよかったから僕は瞳を閉じた。