キスは初恋の味だとか、レモンの味だとか聞いたことがある。
実際に僕は名前にキスをしたことがあるけれど、あの時はなんにも味はしなかった。
多分、あれは僕らの気持ちが通じ合ってなかったからなんだろうな。
ということは僕はちゃんとしたキスってやつをやったことないンじゃない?
「それでね……、」
なんて思っていたら自然と名前の唇に目がいく。
じゃあ、気持ちが一度は通じ合った今ならちゃんとした『初めてのキス』なのかな。
アイスを舐める彼女の唇はきっとアイスの味がするんだろうな。
それともそんなのお構いなしにレモンの味がするのだろうか。
「……あ、あの、カヲルくん……そんなに見つめられたらアイス食べにくい……かな。これ、食べたいの?」
「ああ、ごめん。」
名前の唇の味が確かめたい、なんていったら顔を真っ赤にして怒るだろうな。
また彼女との友情を壊すようなことはしたくはないし、とりあえず謝っておく。
顔は戻し、ちらりと目線だけで盗み見る。
名前はまだ僕の方を向いていたようでばっちりと目があってしまった。
どうかしたの?と顔が語っている。僕は前をむいた。
キスがしたい。なんて馬鹿げたことを。
まるで僕は変態みたいじゃないか。
「ねえ。」
「うん?やっぱりアイス?」
「アイスは関係ないよ。恋人になりたい人とキスしたいとか性交したいって思うことは普通なの?」
「せっ……!?」
性交と言いかけて自分が何を言おうとしたのか気づいたのか口元をバッと押さえる名前。
その顔は口元を隠していてもこちらにわかるほど真っ赤で。
ここで笑ったらきっと名前は教えてくれないだろう。僕が聞きたかった事を。
しばらくすると僕が真剣に聞きたいというのを分かってくれたのか小さい声で話しだした。
「そ、それは普通、だと思うよ。この人と子孫を残したいって本能と、あと好きって感情でふれあいたいとか、そういった事したいとか……思うだろうし。」
「ふーん。」
「ふーんって!私一生懸命答えたのに……っ!」
「ああ、いやそうなんだって思っただけで。」
今にも殴りかかられそうになったので、ストップをかけるように僕は両手をあげ降参のポーズをとる。
困った、なんでか分からないけれど怒らせてしまった。
威嚇でもするかのようにフーフーっと息を荒げてた名前が手を下ろす。
あぶなかったァ……!
「そ、その、そういう事女の子に聞かない方がいいよ。」
「なんで?生きていたらいつかすることだろう?」
「でも、それでも、恥ずかしいことだし、二人しかいない時にそんなこと聞かれると……多分勘違いしちゃうんじゃない?」
「勘違い?」
……ああ、要するに今の状態でキスや性交したいって思っているけれど、それって普通?普通ならばその行為をしようと言っていると勘違いするかもって……?
面倒だなァ、リリンは。
「それに、他の女の子に聞いて欲しくない、な。なんて。」
真っ赤に顔を染める名前をみて、僕はキスをしたいと思った。
……僕って変態なのかもしれない。