「デート!デートだからね!」
「ふふ、知っているよ。」
大きな声をだしては周りには迷惑だろうとは思っているんだけれど、どうしても叫ばずにはいられなかった。
さっき起こった出来事に腹をたててしまったからだ。
「お姉さんじゃありません!」
「仲良しに見られたということだよ。」
買い物をしようかと入ったデパートで試食コーナーを通り過ぎようとした時に言われてしまった「お姉さんも試食をどうぞ」の言葉。
わかってる、カヲルくんは中学生だから姉弟だと見られてもしょうがない年齢の開き方なんだけれど……、やっぱり腑には落ちない。
「どうやって姉弟に見えないようにすればいいのかな……。いや、いっそ親と間違われなかっただけましということでポジティブに考えるべきか……。」
「僕、同年代の子と一緒にいたら年上に見られるんだけれどね。」
「でも単体で居たら全然中学生よ。」
そうですか?と首をかしげ、幼い顔で覗き込んできたその顔はどこからどう見ても中学生そのものだった。
そろそろデートに戻らないと時間がもったいないと思い、次はどこに行こうとキョロキョロとしていたらいきなり手を掴まれた。
「僕、甘いものが食べたくなってきました。どこかで休みませんか?」
「そうだね、ちょっと休もうか。」
今日はデートということで少しオシャレをしてきたのだけれど、さっきから靴が合わないのか少し足が痛かったので嬉しい申し出だった。
……もしかしたらカヲルくんはそれに気づいてそう言ってくれたのかもしれないけれど……。
少し歩いたところに喫茶店があり、中に入ると少しひんやりした空気に包まれる。
すぐに席に案内してもらい、ケーキセットを頼み、飲み物は私は紅茶を、カヲルくんはメロンソーダを頼んだ。
「メロンソーダと紅茶……、もしかしたらそこらへんもあるのかな?」
「なんの話だい?身長?体重?」
「どっちも関係ないやい!」
私も子供っぽく振る舞えば彼に釣り合うだろうか。
ケーキと一緒にだされた飲み物を見比べる。
「好きなものを食べる、というのはいいよね。幸福だと感じる。名前も好きなものは好き、でいいんだよ。無理に何かを頑張ろうとしてもいずれそこにヒビが入る。」
「……バレてるのね。」
「君の事は全て知っていたいからね。」
目線はケーキにやって、いつもの笑みを浮かべている。
意地の悪い笑みだ。
私もケーキに手をつけようとフォークを持ち、ケーキに刺したところで目の前をふっと何かが横切る。
気になり見てみるとケーキを一口サイズに切り分けたフォークが目の前にあった。
そのフォークの持ち主を見ると幸せそうにニコニコと微笑む彼の姿。
……ここであーんしろと?!
なんて目で訴えても彼はその微笑みを絶やさない。
どうやら譲らないらしい。
根負けして口を開けると彼はその口にケーキを入れてきた。
甘く、とろけるようなチーズの味が口に広がる。
しゅわしゅわとした食感に、思わず目を細めてしまう。
「ふふ、名前は可愛いなァ。」
「!う、チーズケーキありがと。」
まわりから好奇な目で見られている事に気付き、自分のケーキへとフォークを伸ばす。
きっと他の人もカヲルの綺麗さに見蕩れていたり、仲のいい姉弟だとか思っているんだろうな。
またナイーブな感情が私を包む。ケーキは美味しいのに……。
フォークを持つ手も力を無くし、更にフォークを置く。一緒にため息も落とす。
ふわっと白い手が私の手を包んだ。
包んだのはもちろん、前に居る彼で。
「帰ったら家族ではできないような事しようか?」
なんだろう、と一瞬思ってしまったけれど、彼が妖艶に微笑んでいるのをみて何を言っているのかわかった。
ここで、うん、と返事するのはなんだか気恥ずかしくて私は彼の手を力をこめギュッと握り返した。