……(貞)渚カヲル夢/甘
どおんと大きな音が鳴った後にぶつんと全てが闇に落ちた夜だった。


「うわああ!びびびびっくりしたぁ!」

「……停電?」


突然のことだった。
彼氏であるカヲルくんが家に遊び来て、もうすぐ帰ろうとしたところ、
スコールのような大雨が降り始め、どうせすぐ止むだろうと思って引き止めたのだけれど……。

カヲルくんが言ったとおり、これは停電なんだろう。
カーテンをあけ、外を見てみるけれど何処の家も電気はついていない。


「どうしようか……。」

「しょうがないよ、回復するまで待とう。それともこの大雨の中、僕を外に放り出す?」

「まっさかあ。」


雷で周りが明るくなって彼の顔が一瞬見えたけれどいつもどおり飄々とした顔で口元だけで笑っていた。
いつもどおりの彼に私も平常心へと戻って思わず彼の軽口に笑ってしまった。

暗いので手探りで彼の隣へと向う。
彼が座っている場所であろうところに座ると私の手を取り、ギュッと握られる。


「カヲルくん?」

「いや、なんでだろうね。暗いと静かだけれど……、なんだか名前が近くに感じれる気がする。」
「……そうだね。」


私の小さなつぶやきは窓に当たる大粒の雨の音に打ち消されそうだったけれど、彼には届いたらしくぎゅっと手を強く握っていた。

目を瞑っていてもいなくても同じだろうけれど、目を瞑ると隣の彼の体温をより感じる。
ここに肩があるだろうな、と思って身体を傾けると考えていた位置に肩があった。
自分の頭を彼の肩に置き、一度こすりつけた後に落ち着かせる。

なんだか暗闇だと少し大胆になれる気がする。
きっと雨音もすべてを遮断してふたりっきりの世界にさせてくれているのかもしれない。
だから、すごく近く感じるんだ。


「普段からこうやって甘えてくれたらいいのに。」

「何か言った?」

「べつに。」


他愛のない話まで、なんだか面白く感じてしまって思わずクスリと笑ってしまった。
雨が降っているけれど、何故か静かな空間に布が擦れた音がする。それと同時にカヲルが動いた。

暗闇に少しずつ慣れた目が何か前を通り過ぎるのを捉える。
これはカヲルの手と腕だなってわかったころには私の耳に彼の手が当たる。

何かを探るように耳の形をなぞり、顎のラインまで下がってくる。
ちょっとしたくすぐったさに息がつまり、くすぐったさと同時にどうしてか……少しだけいやらしい気持ちになった。

首筋を撫でられて声が出そうになるのを押さえて小さく息を吐くといきなり唇に何かが当たる。
首筋にあった手もいつの間にか後頭部に回っていて、まるで逃がさないとでも言わんばかりだ。
息継ぎの為に小さく口を開けると待ったましたと言わんばかりに彼の舌がヌルりと口の中に入ってきて我慢していた声が口の端から漏れてしまう。

外は豪雨で雨音も大きいはずなのに。雷もなってうるさいはずなのに。
お互いの上がる息と唾液のくちゅくちゅとした音が耳を支配していた。


「あは、暗いけど、名前が今どんな顔をしているか当てれる自信あるよ。」


口を離して第一声。私も当てられる自信がある。
「すっごいヤラしい顔」なんて耳元で言われる。その声と図星ということもあり、顔が熱くなる。
後頭部の手はそのままでカヲルくんから体重をかけられ、後ろへとゆっくり倒れる。


「す、するの?」

「そんな顔されて黙ってられないよ。」

「見えないくせに……。」

「手に取るようにわかる。」


私も手に取るように、とはいかないけれど今カヲルくんがどこにいるかはなんとなくわかった。
白くぼんやりと見える頭は首筋へと向う。


「ぅん……っ」


首をそぐかのように下から上へと舐められると無意識のうちに腰が跳ねてしまう。
どうしようもないこの恥ずかしさに彼のシャツを掴むがカヲルくんはその事について気にしていないのか、少し身体を下げる。

着ている服がめくられ、露出したお腹に唇の感触とふわふわとした髪の毛があたる。
身体をよじっていると腰を押さえられた。
もう片方の手は更に服を脱がそうとしていて、ついに胸まで露出してしまった。


「あっ……。」


暗闇だからいつ何をされるかわからない、そんな興奮がドンドンと私を支配していく。
胸にキスをされ、もう、


そのとき、突然、辺りが真っ白になった。
それと同時に私もカヲルくんも同じく真っ白になったのかお互いにびっくりした顔をしていた。


「で、電気がついた……!」

「あ!なんで服を着るのさ!」

「だっ、だっ、だって明るいし!しかもカーテン開けっ放しだもん!!」


さっきの興奮もどこへやら。まるで私にもスイッチが切り替わったかのように冷静になってしまった。
服の乱れていたのを正し、カーテンをしめる。
後ろを向くとムスっとした顔でこちらを見るカヲルくん。


「ま、また今度、ね?ほら、雨もいつの間にか止んでるし。」

「今度っていつ?」

「近々、じゃダメ?」

「……。」

「好き、だよ、カヲルくん。」

「絶対だからね?」


少し機嫌が直った彼に笑顔を送るとカヲルくんは小さくため息を漏らして降参のポーズをした。


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