節分といえば……、たとえば恵方巻きだったり豆まきを思い出す。
しかし、もうこの歳になったら豆まきを行うことなんてない。……はずだった。
帰り道、カヲルくんから明日の土曜は暇かと聞かれた。
「え、うん……暇だけれど……、なんで?」
「前行った幼稚園覚えてる?」
「えっと職場体験したところ?」
「そ。あそこの先生からメールで節分の豆まきの鬼役やらないかってきたんだ。君もってことだったし相談しようと思って。」
「ホント?!行く!行きたい!」
カヲルくんは私の返事を聞くと、わかったと頷き携帯を手にした。
そして私たちは帰り道によく行く自販機で飲み物を飲みながら明日の事を話し、家に着いた。
デートではないにしろ、一緒に居れるのは少し嬉しかった。
そんな気持ちを抱えたまま眠り、朝起きると空は清々しい程の青空で絶好の豆まき日和でした。
「おはよ。」
「おはよう、カヲルくん。」
以前、職場体験で来た幼稚園を訪れると正門には既に私を待っていたカヲルくんの姿が見え、少し駆け足で彼の元へと寄る。
服装はいつもの制服だ。
「なんだか少ししか経ってないのにこの門をくぐるの戸惑うね。」
「だね。あ、先生だ。」
「おまたせー!はい、渚くん。」
先生はかわりないようで、以前話していたときと同じ突っ走った感じで話を進めた。
というより内容も話さずにカヲルくんに鬼のお面を渡した。
「今日は土曜だから生徒が少ないんだけれど、先生も少ないのよね。でもせっかくだから節分もしたいってことでさ。助かったよ、二人がきてくれて。はい、じゃあ苗字さんにはこれ。」
私に渡されたのは升だった。中には炒ってあるだろう豆が沢山入っている。
あれ?私は鬼じゃないんだ?
「お客さんに痛い思いをさせるのもね。」
「僕もお客さんなんだけれど。」
「男の子は働く!」
カヲルくんは不服そうな顔をしていたけれど、しぶしぶ引き受けたようだ。
先生は赤鬼のお面を被り、はっはっはと笑い、カヲルくんは青鬼のお面を被り表情は見えないものの嫌そうな雰囲気を醸し出していた。
……傍からみるとちょっとシュール。
「ほらほらー!私たちは全力で逃げるわよ!苗字さんは皆に豆をあげてねー!がおーっ、鬼だぞー!」
先生がそのままの格好で両手を挙げ、園児達の輪に入っていく。
入っていった瞬間に叫びだす子、泣き出す子、笑っている子とバラバラだった。
「み、みんなー!悪い鬼はこうしてしまえー!」
ちょっと演技が棒読みになってしまったけれど先生に向かって豆を投げると先生はそれに当たり、大げさに痛がるリアクションをした。
……これカヲルくん出来るのかなぁ……。
ちらっとカヲルくんの方をみたけれど、ノリはいいのか両手を挙げ、先生の真似をしている。
「あ、せんせーみたことある!」
「うん?あ、私名前だよー。久しぶりだねー。」
「こらー!そこ!和む前に悪を倒しなさい!悪を!」
「あ、はーい。」
園児達がワラワラと私中心に集まってきて皆に豆を配っていく。
私から豆をもらった子たちは先生やカヲルくんを目掛けて走っていった。
しばらくするとあんなにあった豆が無くなり、私はカヲルくんは今どうなっているんだろうと顔をあげた。
ぱちり、そんな感じの擬態語が合いそうな目の合い方だった。
青鬼さんは私と目が合うとダッとこちらにダッシュしてきた。
「せんせーにげてえ!」
「名前せんせーいじめたらダメー!」
「いたたたッ!」
豆の雨を受けて本当に痛そうな声が上がる。
意外と攻撃力の高いんだよね、お豆……。
青鬼さんが私の前まで迫ったが、彼は私の裏に周る。
「ええええ?!」
これじゃまるで盾だ。……多分、まるで、じゃなくて盾なんだろうけれど。
「カヲルくんずるいよ!」
「いいよ!もう鬼は終わり!」
お面の下の方を持ち、ぐいっと上げる。今、ちょっとかっこよかった。
素顔がわかると園児たちはカヲルくんを覚えていたらしく、色々なところから彼を呼ぶ声が上がる。
「げー!離脱早くない?!」
「先生だって取ってるじゃん。」
鬼役二人がお面を取ってしまったので今日の豆まきはこれにて終了、となった。
次は皆で掃除の時間だ。
箒とちりとりをもって掃除をしているとカヲルくんが話しかけてきた。
「名前。」
「サボってちゃダメだよ?」
「一応、少しはやってるよ。」
「まあ、カヲルくんはさっきまでずっと走ってたからね。」
……その割には息切れとかしてないけれど。
「今日は名前と一緒に豆まきできてよかったよ。初めてこんな事したし。」
「うん、私もそうかもしれない。」
「楽しかった。……また巻き込んでいい?」
「ま、巻き込むのは勘弁してほしいなぁ……。」
なんて口では言ったけれど、楽しかったのは間違いないし、
また誘ってもらえるんだと思い、嬉しくなった私でした。
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ツッコミどころは先生は何故カヲルのアドレスを知っていたかというところ。
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