9/13。
カレンダーの大きく書かれた丸に×を書き込む。
今日はカヲルくんの誕生日。
「よし……っ!」
今日の為に何度か頑張ってきた。
彼が喜んでくれるのだけれどいいのだけれど……。
ぎゅっと綺麗に梱包されたプレゼントを胸元で握り締める。
学校に着くと彼は、やっぱりと言えばいいのか……
今日の主役を取り囲むように女子の団体があった。
これじゃプレゼントを渡そうにも渡せない。
「……ど、どうしよう……。」
「あれ、苗字?おはよ。どうしたの呆然として……ああ、なるほど。」
「碇くん……、おはよ。すごいよね……。」
碇くんは私の視線の先を見て、何を見ていたのかわかったらしく、彼も苦笑いをした。
こう女子が多くては渡しきれない。かといって碇くんに頼むのも失礼だろうし……。
「お昼になったら少し落ち着くよね……、わ、私先に教室に行ってるね!」
「あ、うん。」
碇くんと別れ、教室に入りカヲルくんの机を見るとそこにもプレゼントの山……。
せっかくなら直接渡して喜ぶ顔を見たいな……。
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「あれ?シンジくん、さっき名前と一緒にいなかった?」
「見えてたんなら来いよ……、苗字、何かお前に渡したいみたいだった。」
「あは、ホント?!」
たかだかヒトが一人、生を受けただけでどうしてこんなに周りからお祝いを受けなきゃいけないんだ。
って今日は朝から少しうんざりしていたけれど、名前が僕に用があるというだけで少し心が躍った。
なんだ、名前も僕の誕生日を知ってくれていたんだ。
そう思うとこの日もなんだか悪い気がしなくなってきた。
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「え、あのホモにまだ渡せてないの?」
「う、うん……、実は。」
時間はついにお昼になってしまった。
授業が終わるとどこからともなく女子(たまに男子)がやってきて彼にお祝いの言葉とプレゼントを渡す。
それのせいで私は結局カヲルくんに渡しそびれている。
「放課後までに渡せればいいんだけれど……、たまにカヲルくんと目があうし……、楽しみにしてはくれてるみたいだから。」
「アンタらってたまに付き合ってるんじゃないかって思うわよ……というかそこまで仲が良いのに逆に付き合ってない不思議って感じね。」
「え?!なななななに言ってるのアスカちゃん!」
思わず仕舞おうとしていたお弁当箱を手から滑らせガシャンと派手な音を立てて落としてしまった。
周りの視線が集まり、慌ててアスカちゃんとの会話を小さいものにする。
「カ、カヲルくんは私を特別視をしてくれてるけれど、あくまでもアスカちゃんとかと一緒でただの友達なんだよ……。」
「どーだかね。」
「アスカちゃん……。」
カヲルくんが私なんかを好き、だなんてそんなことは思っていないよ。
ふとカヲルくんを見ると、また目があう。
その瞬間カヲルくんは携帯をとりだすと私の携帯が震えた。
送り主は、その彼からで。
一言『一緒に帰ろう』、ただそれだけ。
でもその一言だけが私の気分を高揚させた。
「メール見た?」
「あ、カヲルくん、うん、ちょっとまって。」
メールの通りにカヲルくんは放課後になると私の元へ来てくれた。
教室の外には女子達がいるけれど、カヲルくんは「帰るからまた明日」といって手を振って相手にしなかった。
少しうれしい気がするけれど……
「少し、冷たくない?」
「そ?別に誕生日を機にいなくなる訳じゃないんだし。」
「そうだけれど……、でも誕生日は今日だけだよ?」
「……名前はさ、」
少し私の前を歩いていたカヲルくんが立ち止まり、私の方へと振り返る。
強い瞳、伺っているような、赤い瞳が私を射抜く。
「僕が生まれてよかったと思うかい?」
「……思うよ。大事な人だもん。出会えてうれしい。カヲルくんが生まれてこなかったらこの気持ち気づかなかったから……。」
そういって気づく。
……あれ、私今告白した?
気づいてしまって顔の熱が過去最高潮に熱くなったのを感じた。
――わわわわわ私なんてことを!!!
カヲルくんに悪いことをしてしまった!と思って少し下げていた顔を上げると私が思っていた表情ではなく、
うれしそうな表情を彼はしていた。
「あ、えっと、カヲルくん。お誕生日おめでとう、これ、プレゼント。」
きっと告白したことに気づいていないんだろうな。それもまた彼らしいけれど。
そして私は彼が気になっているプレゼントをあげることにした。
カヲルくんはそれにぴくりと反応した。……可愛い。
「チーズケーキ作ってきたの。これ、炊飯器でできるんだよ。すごいよね。」
「僕はお菓子作れる君の方がすごいと思うけれど。」
カヲルくんは受け取って、周りに花が咲きそうなくらい嬉しいという感情を私に見せてくれた。
そんな貴方に会えたことが嬉しいな。
……誕生した今日という日にありがとう。
→
渚カヲルハッピーバースデー