リコがチラシを片手に日向と話していた。一体何を話しているのかと近づく。
なんの話をしてるんだ?と聞くと、リコは笑顔であのね、といってチラシをこちらへ向けた。

「友達が、ここのケーキ屋さん美味しいっていってたから、今度いこうかなっていう話をしてたの」

ポップな字体でnew open!と書かれたそのチラシには見覚えのある店名も書かれていた。おや、と思い右下の地図を見て、ああ!と思わず手を打った。

「そのケーキ屋、ショートケーキが特に美味しかったぞ!」

そういうとリコは驚いたようにこちらをみた。

「鉄平、もういったの?ここからだと遠いでしょ、ここ。」

「お前、和菓子のほうが好きじゃなかったか?」

日向までもが驚いた顔をして、そう言った。俺が洋菓子を買うことはそんなにおかしいのだろうか。少し複雑な気分になりながらこたえる。

「花宮ん家から近いからさ、最近はそこで買うようにしてるんだ、ケーキ」

「はあ?」

「だって、ケーキって幸せの象徴だろう?俺は花宮を幸せにしたいんだ!」

そういいきると、二人は顔を見合わせ眉を寄せた。

「色々ツッコミたいところはあるんだが、木吉…お前、なんで花宮にそこまでするんだよ…」
「鉄平…騙されたりしてないわよね…?」

心配そうにこちらを見つめる二人に、大丈夫だぞ!といって笑う。

「花宮は、ちょっと幸せ慣れしてないだけなんだ。」

早く慣れればいいんだけどな!と笑うと、リコはそうね、とひきつったような笑いを浮かべ、日向はまるっきり理解できないとでもいうように顔をしかめた。
俺はそんな二人の態度に頬をかく。
本当に花宮は悪いやつじゃないのになあ。

・ ・ ・ ・

「花宮、」

口元にショートケーキを押し付ける。花宮は涙目でこちらを見あげながら、ゆるゆると首をふる。それを許さないと言うように見つめると、花宮はあきらめたように口を開いて一口づつそれを食べ始めた。押しつけていたそれが、ゆっくりと花宮の口のなかに消えていく。はくはくと弱々しくケーキを咀嚼する花宮にいつもの毒気はなく、やはり幸せの力は偉大だと再確認する。
花宮はついにショートケーキを食べ終わって、ふ、と息をはいた。その花宮をよそに俺はフルーツタルトを携える。

「全部、食べような、花宮?」

俺が持っているケーキを見て、花宮は涙目になりながら、いらない いらないと首を振る。それがまたいとおしくて、口元にまたそれを押しつけた。

「遠慮しなくていいんだぞ?全部花宮のなんだから」

そういうと、花宮はぼろぼろと涙をこぼし始めた。
そんなに嬉しいのだろうかと困惑しながら、まだ押し付けているフルーツタルトを見つめる。それは、先端がぐちゃぐちゃになってしまった。このままだと乗っかっている果物が落ちてしまいそうだ。
それでもいまだに口を開かない強情な花宮に痺れを切らし、開いている方の手を花宮の口元へ伸ばす。すると花宮はびくりと身体を震わせて、フルーツタルトを一口かじった。乗っかっていたミカンやキウイがぼとぼと下へ落ちる。結局落ちることにはかわりなかったらしい。
そのフルーツタルトも食べ終わり、俺は次のケーキを選ぼうとしたとき、花宮がえづいた。花宮が青ざめた顔をして口を押さえようとする。その前に俺は咄嗟に花宮の口を覆った。花宮はなんとか吐き出すのは抑えたようだが、少し漏れてしまったらしく掌に生暖かい感覚がした。

「吐くなよ。」

そういうと花宮はこくこくと何度も首を縦にふり、ゆっくりとその、競りあがって口にためていたものを飲み下した。そのあとで、口を塞いでいる俺の掌をぺろりとなめた。俺は微笑みながら空いている方の手で花宮の頭を撫でる。
花宮はかくりと頭を垂れた。

買ってきたケーキは、まだ残っている。


(ほら しあわせでしょ いきができないくらい)


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