「かはっ、」
首を絞めていた手を離すと、花宮は膝から崩れ落ちるようにして床にうずくまった。うずくまって、ごほけほと激しく咳き込んでいる。
俺はしゃがみこんで、その花宮の髪をひっつかんで持ち上げた。花宮は涙目で痛みに眉をしかめている。

「なーはなみや、俺さ、独占欲強いんだ。」

俺がそういうと花宮は、知ってるよバァカ、といって涙目のまま笑った。目尻にたまっていた涙がついにこぼれる。そのつたうなみだの美しいこと。

ああ、やっぱりすきだな

そう思いながら、涙か伝った頬をなぞる。するとびくりと花宮の身体が震えて、酷く気分が悪くなった。それを悟ったのか花宮は笑みを強張らせ、ぎゅっと目を瞑った。
ばち、と鈍い音が響く。花宮は俺から顔を逸らしている。見える右頬は赤い。振りかぶった掌は、少し痺れている。
ふ、と息を吐く音が聞こえた。

「気ィ、すんだかよ、木吉」

花宮はゆっくりとこちらを見ていった。俺なんか恐れていないというようなぎらぎらした瞳が、俺を見ている。
そうだ、花宮はいつだって俺を恐れてなんかいない。どれだけ俺が暴力を振るったって、毅然としている。それは、きっと俺が花宮よりもずっと弱いことを知っているからだ。花宮は恐れない。弱いものを、堕ちたものを、同類を。
俺と花宮はどうしようもなく似ている。似ているから、俺は花宮を嫌悪し、花宮は俺を甘受する。花宮は俺自身であるから、俺にとって愛すべき存在であり、同時に嫌悪の対象なのだ。俺を、こちら側へ引きずり込んだ、い と し い ひと。
花宮にとって、俺を認めることは自分を認めることに等しいのだろう。それは、何も俺だけに限ったことじゃない。人間的に狂ってしまった、オカシナ人間であれば誰だっていいのだ。実際、花宮は俺だけにされるがままなわけではない。だから俺は今こうして自分の感情をぶつけている。冒頭の通り、俺は独占欲が強いから。
花宮はそれもこばまない。知っている。なら、とことんそれに甘えようじゃないか。

「すんでるわけ、ないだろう」

そういえば、花宮はにたりと笑って髪を掴んでいた俺の手を払う。そして、花宮は俺の首に腕を回して俺の唇に噛みついた。ピリッとした痛みが走り、じわりと温かいものが唇からしみだす。それに俺は花宮の髪をぐっと掴み、後ろへ強く引っ張った。その痛みに花宮が噛みつくのを緩めた瞬間に、今度はこちらへ引き寄せて、深く口付ける。そして舌を引っ張りだして、それに、手加減なんてせず噛みついた。引っ込みそうになる舌を離さないように噛み締める。苦しげに花宮はもがく。このまま噛みちぎれればいいのに。そう思った。
気まぐれに噛みつくのをやめれば、今度は花宮が俺の舌に噛みつく。そうしているうちに口の中が血の匂いで一杯になって、その中には俺の血と、花宮の血の、どちらも混ざっているのかと思うと興奮した。
しばらくの間そうやって噛みついていたが、俺は飽きて唐突にそれをやめた。溜まっていた血の味のする唾液を飲み込む。気持ちが悪い。
花宮は回していた腕をといて、唾液でべたべたの口回りを腕で拭った。

「じゃあ、お前の気が済むまで、付き合ってやるよ」


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