い ま よ し せ ん ぱ い

一文字一文字区切るように花宮はワシの名前を呼んだ。顔を見れば、にたりといった効果音のふさわしい、可愛げのかけらもない笑みを浮かべている。そのままソイツはワシの腕へするりと絡みつくと耳元に口を寄せて、媚びる様な甘い声で囁いた。すきです。
それにワシは、せやなぁ、と曖昧にいいながらソイツの髪をすく。指の間を艶やかな黒髪が流れていく。
花宮はわざとらしく、はぁとため息を吐いて、こちらをじっと見つめた。意図的に上目使いにされた瞳が、濁ったようににぶく光っている。
…この瞳を濁らせている正体を、ワシは知っとる。



ワシの知るうちで、花宮真はとてつもなく面倒臭い奴やった。ひねくれていて、猫かぶりで、頭のええ癖にどうしょうもない馬鹿。噂に聞く程度なら面白い奴で済むが、近くに居ればそういうわけにもいかない。
平たく言うと、初めワシはほうって置けんかった。危なっかしゅうて仕方ない後輩を。せやから、あるときワシは好い加減やめたら?ってゆうてみたんやけど、アイツはそのとき驚いたような顔をしたあと、にぃっとゆっくり笑って、やめませんよ、こんな面白いこと、てゆうた。
それに、今度はどうしようもなくひかれた。破滅を求める後輩を。

ワシは、羨ましいんやと思う。勉強でも、バスケでも、類い稀なる才能を発揮する花宮が。その上で、自分の思うまま行動できる花宮が。
普通ならとどめてしまう感情も、全て晒す。憎い、嫌い、うざったい、壊したい、楽しみたい。そんな感情を我慢しない。子供のようなそれをすることが、どれほど難しいか。せやから、アイツについた“悪童”なんていう渾名は実に的を得とると思う。悪ガキなんて、ピッタリそのままやない?
そして同時に、可哀想だとも思う。大人になれない子供は、身の破滅を自ら望む。大きくなればなるほど、感情は抑えなならんものになるから。頭のいい子供はそのことをわかっているのだろう。だからこそ、いまのまま、早くに死んでしまえたらアイツは本望やろうな、と勝手に思っている。…自分が我慢せえへんかったことが原因で死ねるんや。本望やろ?
自由のようで、どうしようもなく縛られている。その縛りが、また花宮の自由さを引き立てている。
追いつきようのないくらい自由で、それと同時に同じくらい縛られていて、それがどうしようもなくかわいそう。
それがワシの中での花宮真の像だ。

かわいそうだと、ワシが思い続けていることを花宮はしっとると思う。それなのに好きだ好きだと言い続けるのは、ワシが好きになることを期待しているから、ではなく、花宮は拠り所がワシ以外に見つけられていないからだ。ちょうどいいところにワシがいた。初めに見つけたのがたまたまワシやった。きっとそれだけに違いないねん。

…そうやないんなら、花宮は救いようのない阿保や。


 こちらを見つめている瞳から目を一度逸らして、再びみる。それは一瞬だけ揺らいだように見えた。そんな顔したって、ワシは別になんとも思わんのに。
 せんぱい、と後輩が甘えた声を出すから、ワシは困ったように眉を下げて、言ってやった。

「スマンなぁ、花宮」

 こちらを見つめる濁った瞳から、雫が零れた気がした。


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