ちくたくと時計の音が大きく響いている。それは時の進みを表すものだが、どれだけそれを刻んだか分からない。もう30分くらいは軽く経ったような気もするし、1分も経っていないような気もした。
 見つめているのは、俺の下にいるヒロトの顔。緑色の目が戸惑ったように俺を見つめている。たぶん俺も似たようなことになっているのだろう。
 俺は、ヒロトを押し倒していた。
 もちろん、自分の意思ではない。事故だ。…と思いたい。
 広い部屋(なんの為に使うのか分からない)の中に、ヒロトが一人でいるのが見えたから、部屋の中へ入っていって、駆け寄って行ったら、なにかに躓いて、それに気付いたヒロトが俺を受け止めようとして、受け止め切れず、後ろへそのまま倒れたのだ。ヒロトは思い切り頭を打った様で、俺の下で顔をしかめていた。
 それに大丈夫か、と言おうとしたら、ヒロトとばっちり目が合って、そのまま目を離せないでいた。目も離せないし、言葉も発せない。
 不思議な感覚だった。目だって、言葉だって、やろうとおもえば離し、発することが出来るはずなのに、そうできない。体も金縛りにでもあったかのように動かない。心のどこかが動くことを拒んでいる。
 ヒロトも同じようだった。
 ちくたくという時計の音しか聞こえないこの状況を、誰か壊してくれ。風丸だろうが、未来人だろうが、宇宙人だろうが、誰でもいいから、やって来てほしい。そうなればこの金縛りだってすぐに解けるにちがいない。
 でも、それが起こるのは奇跡に近かった。なぜなら、ここが俺すらも名前も使用目的も知らない謎の部屋だからだ。
 今は時計の針の音に加えて、どくどくという心臓の音も聞いていた。両方の音が混じりあって気持ちが悪い。声をだそうとする度にその心臓の音に邪魔をされている。
 しかし、俺はその心臓の音になんとか打ち勝ち、声を発したのだった。
「円堂くん、」
「ヒロト、」
 同時だった。びっくりした。まさか全くの同時にお互いが声をだすなんて思ってなかったからだ。ヒロトも驚いたようで、切れ長の目を丸くさせている。また、ちくたくと時計の音が鳴り響いた。
 しばらくの間静寂が続いたが、急にヒロトがくすくす笑い出して、それに釣られて俺も笑ってしまった。
 いったい、あれからどれほどの時が過ぎているのだろうか。俺には分からなかったが、もうどうでもいいことになっていた。





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