こんなに、視界がはっきりしない夢は初めてだ。
 視界がはっきりしないことが腹立たしい。目の前にあるものすらもぼやけてよく分からない。かといって、感覚がしっかりしている訳でもないから、踏み締めている足元が、土なのか草なのかもわからない。そもそも本当に歩いているのかもわからない。
 わかるのは、全てのものの色がパステルカラーで出来ていること。小さなこどものおもちゃ箱の中みたいな、変な世界だ。
 ここはいったいどこだろう?
 ぼやけた視界に疲れて、上を見上げた。上にはパステルの青い空が広がっていた。淡い青の中の白は目立ってよくみえる。空だけは、綺麗に見えた。
 そんな空にもしかしたらと思って、もう一度目の前に目を向けてみたけど、やっぱりぼやけてよく見えない。もうぼやけた風景を見たくなくて目を閉じた。
「緑川、」
 目をぎゅっと閉じていると、突然自分のことを呼ぶ声が聞こえた。その声にゆっくりと目を開くと、翠色の目が俺の顔を覗きこんでいた。
「うわあっ!!」
 びっくりして後ずさるとネコみたいな赤い髪が目に入ってきて、二度びっくりした。声の時点で気づいてはいたけど、本当にそうだとは思わなかったのだ。
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃないか」
 驚いて何も喋れない俺に向かってヒロトが笑いながらそう言った。
「そんなに近くにいたら誰だって驚くよ!」
 俺がそういって反論すると、そうかなあとヒロトは不思議そうな顔をした。
「まあ、いいや。緑川はどうしてここにいるの?」
「そんなの、俺が知りたいよ…」
 こんなおもちゃみたいな変なところにどうしているのか。ヒロトもどうしてここにいるのか。ここは分からないことが多過ぎる。
「へえ…。緑川は、自分が思ってここへ来た訳じゃないんだ」
 そうそう、と頷きかけたとき、言葉におかしな所があるところに気がついた。
「自分で思ってここに来た、ってどういうこと?」
 俺がそう問うと、ヒロトはそのままの意味だよと俺の目を真っ直ぐみて答えた。
「俺は、ここに来たいと思ったから、ここにいるんだ」
「…どうして?」
「一度は、思い描くだろ?おもちゃがいっぱいあって、ずうっと遊んでいられる様な場所」
 ヒロトの言葉に辺りを見渡した。パステルカラーの大きなおもちゃが建物の様に佇んでいる。大きすぎて、どうやって遊ぶのか分からないけれど。
「ここに来ると、昔に戻れるような気がして」
 まあ、戻れないんだけど。そう言ってヒロトは笑う。
 俺はそんなヒロトにまた尋ねた。
「昔に戻って、何がしたいの?」
「戻りたいんじゃないんだよ。ただ、後悔してるんだ」
 もっと遊びたかったなあって。
 そういったヒロトは、はかなく笑って、そのあと何事もなかったように消えた。
「ヒロトっ?!」



 目を開くと朝日が眩しくて、寝ぼけた頭が今何時だろうと近くにあるはずの目覚まし時計を探す。時計を掴みとって時間をみると、起きるまでまだ時間があることが分かった。それと同時にこの目覚まし時計がなるまで、布団の中にいようと決めた。
 それにしても、変な夢を見ていたがする。それも、なんだかいい夢なのか悪夢なのか分からないような。
 でもただ、ヒロトが出てきたことだけは覚えている。
 これだけだったらいい夢かもな、とボーッとしながら思った。



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