軽く身じろぎをすると、ぎしりと自身の身体が音をたてたような気がした。それに影山は短く切るようにして息を吐く。
拘束されてから一体何時間が経ったのだろう。地面より数センチ上の宙に浮いている身体は、腕を後ろに固く取られており、全くもって動かせなかった。ぬるりとした体液を纏っている縄状の生物……触手とでも言えばいいのだろうか……の拘束は、滑って効果をなさなさそうであるのに、それは影山の肌にまるで吸い付くかのようで離れる気配は全くなかった。
ぱたり、と影山の顎先から汗が滴る。口を少し開いて、荒い呼吸をしている彼の頬はやけに赤い。そして何かに耐えるように眉を寄せて目を閉じていた。
影山の呼吸音だけが響くような静かな部屋に、コツ、コツ、とゆっくりとした足音が辺りに響く。影山はそれに目を開いて、目の前を睨みつけた。この部屋にやって来るのなど、たった一人しかいない。
その目の前の人物…及川は心底楽しそうな笑みを浮かべて、影山の視線に答えた。
「ヤッホー、トビオちゃん。そろそろ降参する気になったぁ?」
及川がまるで挨拶のように軽く言った言葉に、影山は首を横に振る。
「前にも、いいました、けど、そんな気、無い、ですから」
及川を睨みつけたまま影山がそう言ったのに、及川は面白くなさそうな顔をする。その後でパッと思いついたように、じゃあもう一回いっとく?と言った。
その言葉の意味を影山が理解するその前に、背後から腕を縛っている触手と同じ種類の触手が伸びる。そのあとで意図を理解し、口を閉じようとした影山の口内に無理やり触手は侵入した。
「やめ…ッ!?」
口内に充満する甘ったるい匂いと、酷い苦味が喉を通り過ぎていく感覚に影山は絶望を顔に浮かべる。一も二もなく口の中に突っ込まれた触手に抵抗など出来るはずもなく、すぐさま分泌された液体を飲み込んでしまった。始めのものは飲んでしまったが、もう飲むまいと口内に液体を溜め抵抗するが、後ろから伸びてきた別の触手に鼻を塞がれ、飲み込むしかなくなってしまう。
しかし、呼吸器を両方塞がれたせいで液体が気道の方に入ってしまい、影山は本当に呼吸が出来なくなった。さすがに死なせては不味いと思ったのか、鼻を覆っていた触手は引き、口内の触手はずるりと出て行く。それに影山は一気に酸素を吸い込んだ後で、飲み込んでしまったものを吐き出そうとするようにえづいた。
「 ゴホッ、けほ、ッ、ハァ…っ、ぁッ、」
しばらくの間えづいていた影山の声に艶が混ざり始める。それに及川は腕の拘束を強めるように触手に目線で合図した。すると間も無く影山から悲鳴が上がった。
あ、あ、と意味もなく漏れる声に混じって、やだ、やだ、と子供が駄々をこねるのように繰り返す影山に、及川は笑みを深めた。
次第に影山の目は潤み、焦点を失い始める。もともと赤かった頬はさらに赤くなり、高熱に浮かされているかの如く呼吸もさらに乱れ始めた。だらだらと閉じられない口から唾液をこぼす。
「いや、ァ…、う、」
涎を垂らしながら喘ぐ影山は、無意識にか小さく腰を揺らしていた。触手に腕を身体が宙に浮く状態で拘束されている影山はふらふらと宙で揺れる。まるで誘っているかのようなそれは想像を絶するほどに淫靡な光景であった。
「やだやだっていうけど、腰揺れてるよ?トビオちゃんってば、やっらし〜」
及川がからかうようにそういうと、影山は唇を噛んで視線から逃れるように顔を背け俯いた。垂れた涎が糸を引いて地面へ落ちる。影山はきゅっと内股に力を入れて揺らさないようにする。
そのいじらしい影山の反応に、及川は相当な量の催淫液を飲んだはずなのにまだ理性があるのかと感心した。
及川は影山のそういうところが好きだが、もうそろそろ好い加減焦れてきた。
「…ホンット強情だよねぇ、トビオちゃんって。」
及川は影山に近づいて顎を掴むと、影山の顔を無理やりあげさせた。触れられたことさえも快感に変わるのか、影山が息をつめたのがわかった。
影山の頬は真っ赤に染まり、半開きの口は唾液に濡れ、はあはあと荒い呼吸を繰り返している。目は潤んでおり、何時もの鋭さは何処かへ消え、どこかとろんとした顔をしている。それでも眉を寄せて及川を睨むようなポーズをとり、あくまでも抵抗することをやめない影山に、及川は背筋にゾクゾクしたものを感じた。
顔を振って手を振り払おうとした影山の唇を奪う。半開きの影山の咥内に舌を入れる。逃げようとした影山の後頭部を抑えて、今度は影山の舌に噛み付く。それにびくんと身体を震わせた影山の舌を吸うと、今度は鼻から抜けるような高い声が漏れた。影山から抵抗していた力が抜ける。それをいいことに及川は影山の咥内を好き勝手貪った。影山のうるんだ瞳からぽろぽろと涙がこぼれ出す。見えないがふらふらと、及川の身体に擦りつけようとするかのように揺れている下半身を感じて、及川は笑った。
「んんっ…ふ、ぁ、」
欲に溶け切った声を漏らしだした影山から、及川は唐突に唇を離した。すると影山はそれに潤んだ目を目一杯見開いて、物欲しそうに及川を見つめた。及川に影山が言いたいことはよくわかった。
おちたな、と及川は冷静に思う。
自分の勝利を確信して、及川は影山ににっこりと笑いかけた。
「さっさと俺に隷属するって誓いな。そしたらもぉっと、キモチイイことしてあげる」
語尾にハートマークでもつきそうな勢いでそう言うと、影山はすっかり蕩けてしまった目で及川を見つめた。漫画だったら目はハートマークにでもなってそうだ。
そして影山は唾液濡れの口を開いて、



ぱち。
及川が目を開けると見慣れた天井が目に入った。あれ?飛雄は?
チュンチュンとスズメがさえずる声と、ジワジワやらジーやらと鳴く蝉の声がする。
及川はしばらく視点を動かさず、その声に耳を傾けながらさっきまでの出来事を思い返す。そう、俺は触手を使って飛雄を拘束して…
そうしているうちにぼんやりとしていた視界はだんだんと明確になってきた。間違いなく自分の部屋だ。窓からさしてくる朝日が眩しい。
及川はふーっと息を吐き出して、眼前を腕で覆った。

「…夢かよ…」


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