俺は大きな鉄の門を開けた。ぎぃぃ、と重い音がして、ばさばさとどこかで鳥が飛び立った。それに少しびくつきながら、恐る恐る門の中へ入る。目の先には、廃墟のような佇まいの洋館。当然の如く人の気配はせず、お化け屋敷の様だ。
「本当に、ここだよな…?」
 先輩に渡された地図を見返す。この地図通りに進んできたはずだが、本当にここなんだろうか。
 到着した場所が、イメージとだいぶ違ったことに戸惑い、案内してもらえばよかった、と一人後悔しながら俺は再び目の前の洋館に視線を向けた。


『木吉くん、面白いもんがあんねんけど、見たない?』

 同じ学部の先輩が、いきなりそう話し掛けてきたのは昨日のことだ。その先輩とは全く関わりがなく、たぶんあれが初めて会話だったと思う。こちらは一方的に噂で話を聞いたりしていたので存在を知っていたが、向こうがこちらの名前を知っていたことに驚いた。
 その疑問を口に出す前に先輩は俺が一番関心のある単語を口にだしたので、その疑問はうやむやになったままだった。
 思い返すと先輩の話は、はっきり言って、眉唾ものの話だった。今ここで聞かされたら信じなかっただろう。あの時は、先輩が話す俺の興味関心をひく内容に興奮して、そのあとのお願いに、もちろんです、とすぐに答えてしまったが、ここに来て騙されたのではないかという気持ちが沸き上がってきた。
 しかし、ここまで来たのに確かめもせず引き返すのもあれだと思い、一度息を吐いて洋館の玄関を開けた。
 中はあちらこちらに蜘蛛の巣が張られ、様々なところに埃がたまっていた…ということはなく、外観からは想像出来ないほど綺麗だった。少し埃がたまっているところもあるが、普通に生活していればたまるだろう程度のものだ。
 それに少し安心して先輩の、家の一番右奥の部屋にあるから、という言葉を頼りに洋館の中を進む。
 そうしてすぐに、それらしき部屋を発見した。俺は高鳴る心臓を抑えながらドアノブをゆっくり回した。
 部屋は、だいぶ散らかっていた。部屋の右側にある大きな本棚に入らなかった本が、本棚の横だけでなく机などの周りに乱雑に積まれている。そして、部屋の真ん中にある机と二つ向き合う形で左右に置かれているソファーの一つに、人が座っていた。
 大きな窓からさす日に輝いて、その黒の髪が紫がかって見えた。顔は俯いているせいでよく見えない。眠っているのか、こちらを見るような気配はなかった。
 俺はその人にゆっくりとちかよって、顔を覗き込んだ。その人は目を閉じていて、眠っているようだった。
「あの、…」
 起こそうと肩に手を起き揺すろうとしたところで、気付いた。
 “これ”が、先輩の言った…
 俺はごくりと唾を飲んだ。そして、肩に乗せた手をゆっくり移動させて、そっと頬に触れてみた。弾力があり、しっとりとした人間の肌の柔かな感触がした。体温よりも冷たい。
「…凄い、」
 本物みたいだ、と思わず呟くと、ぱちり、と目が開いた。突然現れた髪と同じ様に少し紫がかった黒目に驚いて、慌てて手を離して距離をとる。それは俺をじっと見つめたあと椅子から立ち上がった。
「木吉、鉄平だな。」
 滑らかに発された言葉に息をのむ。すごい。すごい。さっきからそれしか出てこない。あまりにも興奮しすぎて、頭が回らず、声も出なかった。それにさっきから、手が少し震えている。
 ソレは、俺の興奮を余所にさらに言葉を続けた。

「俺の名前はハナミヤマコト。今吉さんから聞いて知ってるだろうけど、マスター…花宮真を元にして作られたヒューマンアンドロイドだ。」






『ワシな、花宮と一緒にアンドロイド造ってん。それで、完成したから試運転しとるんやけど、ワシらじゃわからんことってあると思うから、木吉くん、見てくれへん?』





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