「…注文は?」
「おや、さっきの媚び売りまくりのキャラはどうしたんです?まことちゃん」
「お前らに媚び売っても仕方ないだろうが。はやく注文決めろ。でそれ食って金払ってさっさと帰れ」
「不機嫌そうだな!まことちゃん」
「誰のせいだよ誰の…!」
 注文のメモのための紙を握り潰しそうになりながら、花宮はメニューを見つめている黒子と木吉を憎々しげに見つめる。
 数秒後、黒子がメニューから顔を上げた。
「じゃあ、ボクはバニラアイスで」
「…お前は?」
「んー…俺はなあ…」
 そういいながら真剣な顔でメニューと睨み合っている木吉に、花宮はさっさときめろ、とペンでかつかつとメモを叩く。
しかしそれを特に気にする様子もなく、パフェもいいけどクレープもいいなーとのんきに言っている木吉に、花宮はメモを叩くのを止めて一つため息をはいた。
「俺のオススメは、抹茶クレープだな」
「どうしてです?」
「商品単価が一番高いから」
 さらりと言った花宮に黒子はジト目を向けるが花宮はどこ吹く風だ。それに、抹茶クレープだけは止めましょう、と言おうとした黒子だったが、その前に木吉がにっこりと笑って
「抹茶クレープか!俺は抹茶すきだからな!それにする」
 と、言い切ったため叶わなかった。黒子はそれに、木吉先輩…と視線を向ける。
が、しかし、花宮にとってそれは思い通りの展開でなかったようで、笑顔の木吉に小さく舌打ちをした。そのあとで、花宮は悔しいのを隠すためなのか、にこりとまさに営業用の笑顔を浮かべた。
「かしこまりました。ではしばらくお待ちくださいませ、ご主人様がた」
 その営業用の笑みを浮かべたままくるりと二人に背を向けた。そして調理係の男子生徒に注文のメモを渡した。そのメモを見て慣れた手つきで男子生徒はクレープをつくり、またもう一人は容器にバニラアイスを盛りつけて花宮に手渡した。
 それを受け取った花宮はずんずんと木吉たちの元へ進んでいくと、木吉に乱雑にクレープを手渡し、机にだん、とバニラアイスを叩きおいた。
「ご注文のバニラアイスと抹茶クレープでございます。さっさと食べてとっととお帰りくださいませ!」
 そういって、ついとそっぽを向くようにして本来の仕事である入り口での客の接客へと戻って行った。
 黒子は目をぱちぱちさせて、その後ろ姿を眺めながら呟くように木吉に聞いた。
「花宮さんって、普段もあんなキャラなんですか?」
「ん?…ああ、まあ、あんな感じだな」
 俺に対しては、とクレープを食べながらいう木吉を、花宮から視線をはずして黒子は見た。ついさっき届けられたはずのクレープはもう全体の三分の一程度がなくなっている。それに慌てて黒子も運ばれてきたバニラアイスに手を付ける。
 バニラアイスを掬って食べようとしたところで、ふと黒子は最初に感じて言いそびれた疑問を思い出した。
「そういえば聞いてなかったですけど、そもそも、木吉先輩って、花宮さんと仲、よかったんですか?」
「あー昔な。まあ、ちょっと。」
 曖昧な笑みを浮かべて言葉を濁す木吉に、黒子は首を傾げながら、掬ったバニラアイスを口へ運んだ。なにがあったのか気になったが、言葉を濁すということは話したくないのだろうと黒子はこれ以上尋ねるのは止めにして、食べることに集中した。
 そのあと、黒子よりも早く食べ終わった木吉は、意味もなくクレープの包み紙を弄っていた。適当にそれを折っていると、中になにか入っていることに気付いた。それに木吉は散々弄った包み紙を広げて中に入っているものを取り出す。
 入っていたのは一枚の紙であった。裏返すと、オレンジで文字が書いてあった。
「お待たせしてすみません。帰りますか?先輩」
「! おう、そうだな」
 食べ終わった黒子の声に、文字をきちんと確認せずに、なんとなくその紙をポケットにいれて、木吉は立ち上がった。



 出口で代金を支払った二人に、レジ係のメイドはにこりと微笑んだ。
「はい。確かに代金丁度いただきました。ところで、お二方のどちらか、なにかかかれた紙を見つけませんでしたか?」
 メイドのその一言に木吉が思い出したように紙を取り出す。
「そういえば、クレープの包み紙のなかにこんな紙が入ってたぞ?」
「おお、あたり…?なにがなんですか?」
 木吉が持っている三センチ四方くらいの紙にオレンジで割と雑に書かれた文字を読み上げて、黒子は少し眉を潜めた。それにメイドはにやりと口の端をつりあげる様にして笑う。しかしそれは一瞬のことで、木吉や黒子が気付く前にすぐににこりと笑顔に戻った。
「はーい、おめでとうございまーす!!二名様、大当りでーす!!当たった運のいいお二方は、メイドさんにじゃんけんで勝てたら、そのメイドさんに、ここで出来る範囲で言うことを聞いてもらえるよ!その相手はもちろんは、じゃなかった、まことちゃんですよ、ねッ?!」
 ぎらりと瞳を輝かせて迫るメイドに思わず二人が頷くが、それを確認する間もなくそのメイドは花宮を呼んだ。彼女の中でここまでの段取りは決まったことだったらしい。
「まことちゃーん、ちょぉっと、おいでー」
 いきなり叫ばれた自分の名に、花宮は接客を途中で切り上げてそちらへ向かおうとした。が、呼ばれた理由に木吉たちが関わっていることがわかり、逆にそちらへくるりと背を向けた。
「きゃーんっ、戻っちゃダメーっ、まことちゃーん!」
「…それ、わたしじゃないとダメですかぁ?」
「絶対ダメ、まことちゃんじゃないと絶対ダメ!!」
 メイドの強い口調に、花宮はしぶしぶ、はーいと返事をして不服そうな顔をした花宮がレジまで駆け付けてきた。
「で、わたしじゃないとダメなのって、なんですか?」
 何も分かっていない様子の花宮にメイドがいままでのいきさつを説明する。
「てなわけで、じゃんけんで負けたら、」
「ちょっと待て、いつの間にそんなの出来たんだよ!」
「わ、まことちゃんのキャラ崩れた。あと最初からだよ、聞いてなかったの?」
「聞いてねえよ!」
「えー、は、じゃなかったまことちゃんが珍しー。本当に最初からあるんだよ?いままでまことちゃんが当たらなかっただけで。」
 あったよねえ、とすぐ近くにいたメイドに向かってそう尋ねると、それに、うん。あったあった。とすぐに答えが返ってきた。
「まあ勝てば問題無いから、頑張って☆」
 まさにぐぬぬ、といった具合の花宮に向かってそういって親指をたてたメイドからは、負けろ、というような幻聴が聞こえたような気がした。
 それにもう色々と諦めたらしい花宮がけだるそうに二人に聞く。
「…で、どっちから?」
「じゃあ、俺から」
 にこにこと笑みを浮かべた木吉が一歩花宮に近づいた。
 花宮は静かに拳を握った。それに木吉も拳を握る。
「さいしょは、」
「ぐー」
「「じゃんけん」」
 ぽん、の合図で花宮はグーをだした。それをみて木吉は悠然とパーをだす。
 あからさまなあとだしである。
 レジ係のメイドは、それをみて客の会計中であるにも関わらず思わずぶふっとふきだした。木吉の隣にいた黒子は驚きに目を丸くさせ、木吉を見つめている。
 予想外の出来事に思わず花宮が木吉を見上げると、木吉はいつものようににこにこと笑っていた。そして、
「後だしの権利!なんてな!」
 と、ひらひらとだした手をふって言った木吉に、花宮は目を見開いたあと、にっこりと微笑んだ。
「わあ、負けちゃいましたあ…ってそんな訳あるか!!普通に反則だからな!?」
 いいながら花宮は木吉の肩を叩いた。ぱん、といい音がしたが木吉は痛がる様子もなく、ははっと笑っている。メイドはノリツッコミ…!と一人悶えている。
「やっぱりダメかぁ」
「当たり前だろ!どこをどーすればアレがセーフになるんだよ…」
 呆れ顔で言う花宮の前に、次は黒子が現れる。
「じゃあ、次はボクですね」
「チッ…そういやお前もだったな。さっさとすんぞ」
 二人は拳を構えて同時に振り下ろす。
「「さいしょはぐー、じゃんけん」」
 ぽん、の合図で今度は二つの手がちゃんと出揃った。一つはグーで、もう一つはチョキである。
「あ、勝ちました」「うそ…だろ…」
 その全く別の二つの声が出た瞬間に、レジのメイドはしゃっ、と会計そっちのけで小さく声をあげガッツポーズを決めた。客が変なモノを見るような目で見ているが気にしない。
 普段の花宮ならばそれにすぐに気付いただろうが、気づかないほどじっと自分の手を恨めしげに見つめている。それとは対照的に黒子は自分の手を見つめて少し目を輝かせている。
 見つめながら顔を青くさせている花宮にむかって、黒子は目を輝かせながらいう。
「まあまあ、ボクは鬼じゃないですから。そんな青い顔しないでください。命令は…そうですねえ…」
 そういいながら顎に手をおいて考えるポーズをとった黒子。そしてうーん、とひとつ唸ったあと、ぽんと手を打った。
「チョキで負けたことですし、キュアピースの変身時の決め台詞を言ってもらいましょうか。振りつきで」
「十分鬼じゃねえか!!」
「キュアピースって、プリキュアか…?」
「あはっ、まことちゃん、負けちゃったならご主人様の命令はぜったーい、だから。ね?」
 もうレジを他のメイドに頼んだ、元会計係のメイドが目を輝かせながら今にも噛み付きそうな様子の花宮を宥めるようにいう。
 花宮は深いため息をはいた。
「…やればいいんだよな、一回」
「はい。でも棒読みは無しですよ。したらやり直しですからね。本気でお願いします」
 心なしか楽しそうにそういう黒子を一度睨みつけて、花宮は少し俯いて一度深呼吸する。そして覚悟を決めたように顔をあげた。

「ぴ、」

「ぴかぴかぴかりん☆じゃんけんぽん! キュアピース!」
 そう振りつきで最後まで言い切った瞬間、ざわめいていた教室に、しんと沈黙が流れた。花宮を注視する木吉、黒子、メイドに、調理を担当していた男子生徒、そして客。それにキュアピース最後のポーズである、片足をあげてダブルピースをとった状態で静止している花宮は、目の前の黒子や木吉たちはともかく、そのほかのメイドや客の視線には堪えられないのかだんだんと顔を俯かせていく。
 流れる沈黙の中、木吉は元ネタが分からないため、なんかぴかぴか言ったなーとぼんやりしており、そのとなりでは元凶である黒子が笑いを堪えるのに必死なのか少し震えている。教室中のメイドたちは、大きく『花宮くんなんで覚えてるんだ…』と不思議そうな顔をする組と『羞恥プレイキター!水色髪の少年マジgj!』と黒子を讃える組で大きく二分括されており、注文の通りにクレープやらパフェやらを作っていた男子生徒はまさに唖然といった様子で、それらを作る手を止めた。客は謎のポーズをとったまま俯きがちに静止しているメイドを、何事かといった様子で見つめている。
 しかし、その状態を黒子がぱちぱちと震えながら拍手をして破った。ぱちぱちと起こったその小さな音に、メイドや男子生徒や客は思い出したように元の作業や会話に戻る。視線がひいていくのに、花宮はあげていた足を元に戻し、手で顔を覆った。
「いや、まさか振りまで完璧だなんて…おみそれいたしました」
「もういっそ殺してくれ…」
 呟くようにそういった花宮の背中を木吉が慰めるようにぽんぽんと叩く。
「まぁまぁ…なんかよくわかんなかったけど、凄かったぞ、花宮!」
「慰めになってねえよばぁか!」




「ではボクたちはこれで」
「今度会うときはバスケしようなー」
 朗らかにそういいながら去って行った木吉に、もう二度と会わねえよ!!と、赤い顔で言い放ち、そのあと背中を丸めて深いため息をついた。そんな様子の花宮に、一人のメイドが労る様子で話しかける。
「花宮くん、なんていうか、えっと…お疲れ様。しばらく向こうの部屋で休んでていいよ」
 その一言に花宮は一度だけ頷いて、非常に疲れたというような顔をして、教室の一部を布で仕切って作られた部屋へと入って行った。










「あれー?ねー花宮くんは?」
「向こうで休んでるけど?」
「あ、ならいいや。さっき花宮くんが接客してる間に花宮くんの知り合いだっていう人が来たから、向こうの部屋に取り合えず通しておいたの。」
「へー、今日花宮くんの知り合いいっぱいくるねえ。どんな人だった?」
「えーそうだなぁ、一言でいうならねえ…」














「よー花宮ぁ、憧れの先輩様が遊びに来てやったでー。てゆーかお前、さっきはずいぶんとはじけとったなァ。声、こっちまで聞こえてきたで?」
 言葉の端々に愉悦を滲ませた声が疲れた花宮の鼓膜を揺らす。それに花宮は比喩でもなんでもなく地面が揺れるような感覚を味わった。気を抜くとその場に倒れてしまいそうである。
 それに堪えながら花宮がゆっくりと顔をあげると、その声の主はこの部屋の真ん中に置かれた机の上に足を組んで座っていた。
「なんで…アンタ…ここに…」
 いるんだ、を言った瞬間に花宮は遠くへと意識を飛ばした。最後に、いつものように読めない笑みを浮かべた黒縁眼鏡の男…今吉翔一の姿を捕らえて。











「関西弁鬼畜眼鏡て。漫画のキャラかよ」
「へー鬼畜かー。じゃあ花宮くんのSAN値、もうゼロかもねー」
「あーそれ、いえてる。キュアピースやらされてんだもんね」
「そうそう。しかもちゃんとやるところが律義だよねえ。この三日で今までのイメージ全部ぶち壊されたわ。」
「私もー。てゆーか誰なの?今まで無かったのに大当りなんて紙入れたの。ナイスだけど」
「でしょう!それを指示したのは私だ」
「お前だったのか。マジナイス」
「ふっふっふ、隙を持て余した「メイドたちの」
「あそ…ん?もしかしてあの人って、通したっていう、」
「うん、そうだよ。て、あの、抱えられてるメイドって…」
「もっ、ももももっ、もしかしてええええええええええ」
「いやしなくてもおおおおおおお」
「はっ、はなみ…」








「「「きゃああああああああああああああああ!!!」」」








 このあと、すんでのところで花宮を抱き留めた今吉がお姫様ダッコで花宮を保健室へ運んでいったり、安定の花宮厨()ぶりを発揮した古橋が今吉が保健室へと向かった二十秒後に教室へ駆け付けて来たり、黒子と木吉が今吉が花宮を運んでいる所に遭遇してそのままついて行ったり、花宮を心配した霧崎バスケ部が保健室で一同に会したり、黒子と木吉襲来の一部始終やらお姫様ダッコの現場やらを見た腐女子たちの手で、後日なにやら一般人にはとても見せられない様な薄い本が数冊出回ったりするのだが、それもこれもまた、別のお話。




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