失敗したな、と手に息を吹きかけながら思う。吐く息は白く、手は気休めにも温かくはならない。手を何度かにぎって、指先と手の内側の暖かさの違いに痺れる。ずっとそうしていたらまだかろうじて温かい内側まで冷たくなっていく気がする。
今日はいつもどおりに起きたけど雪でバスが遅れてるだろうからと、慌てて出てきたせいで手袋を忘れた。マフラーもコートも持っているのにそれだけ忘れたせいで、なにか足りないかんじがする。
あきらめて手を握って行儀は悪いけどコートの中に手を突っ込む。寒そうだねツッキー!と横から話しかけてきた山口に、うるさい山口、と返す。ごめんツッキー!とここまでいつもどおりだ。
顔をあげると、防寒装備がマフラーだけの、元気印が二人。そんなの僕だったら絶対耐えられない。無理。死ぬ。見てるだけで寒い。
なんか見てたらむかむかしてきて、ずんずんと影山の方へ近づく。田中さんと西谷さんが大地さんが肉まんおごってくれるってよぉ!と叫んでいる。それに日向と影山が犬みたいにぴくんと反応して走り出そうとする。僕は追いついた影山の手を掴んだ。
「うおっ!!つっめたっ!!!」
びくっと肩を震わせて色気もへったくれもない声をあげた影山は僕の手を払うと目を怒らせてこちらを向いた。
「テメー何すんだゴラァ!マジ殺す気か!!」
怒鳴られたのはスルーして、また影山の手を掴む。おいテメー聞いてんのか!と影山は言っているが、それもスルーして指を絡ませる。影山が目に見えて動揺した。
「な、なんだよ、」
「キミ・・・あったかいね」
「お、おう」
しどろもどろになる影山を無視して手をぎゅっと握ったら、びくっと体が震えた。なんとなく影山の手が冷たくなっていくような気がする。それは僕の手が冷たいせいなだけじゃないようだ。
「緊張してる?」
「!? してねーよボケ!」
慌てて手を振り払おうとした影山の手を、放さないように強く握る。他人の湿った手なんて握っていたくないけど、それよりも面白いほうが勝った。へー。ふーん。
「いやー、王様に一庶民の私が手を握ることで緊張していただけるなんて光栄でーす」
「王様言うな!馬鹿にすんな!」
ぎゃんぎゃんと騒がれて、はいはいすみませんすみませんと適当に謝るとさらに騒がしくなった。
ずっと掴んでいるわけにもいかないので、手を放してやろうと手の力をゆるめたら、ぎゅっと影山から手を握られた。少し湿った手の温もりが、また冷たい僕の手を温めていく。びっくりして影山を見たら、少し顔を赤くしていた。わるいかよ、と悪態をつかれる。
「わるいかよ、お前が近くにいると、緊張すんだよ、」
ぼげ、と顔を背けながら言われて、胸がきゅんとした。僕が180オーバーの男にきゅんとするとか、ほんとありえないし意味わかんないんだけど、それ以外に適切な表現がないんだから仕方がない。なんか冷たいはずの自分の手が汗ばんでく気がする。影山はこっちから顔そらしてるし。耳赤いし。
まったく、これだから王様は。
「ねえ、王様」
「・・・なんだよ」
「もうちょっとこうしてていい?」
そう言って、確認の意味を込めて手をぎゅっと握ったら、目を丸くさせてから、あっちもおずおずと握り返してきた。だから、その繋いだ手を自分のコートのポケットにつっこんだ。影山がなんで?って顔をしたので、こっちの方があったかいでしょ、って答えておく。本当は、手汗が滲んでるのを緊張じゃなくて暑いせいだと言い訳するためだ。緊張だって察してくれたらいいんだけど、鈍い王様はそんなの欠片ほども察せないだろう。あーあ、こっちも緊張してるんだってわかってくれたらいいのに。別に知られたいわけじゃないけどね。

(おい影山ー!!月島と何やっむぐっ)
(日向こっちこよ!ツッキーいまあれだから!)


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