「及川さんの力が、俺の中に入り込んでるってことですか…?それで、俺が操られてた…?」
 菅原からの話をすべて聞きおえた影山は、顔を青くさせてそう言った。それに、苦々しげに菅原がうなずくと、影山は突如として立ち上がる。
「ちょ、影山?!」
 それに慌てて影山の腕をつかむ。蒼白な顔面をした影山が口早に言った。
「でていきます。このままいたら菅原さんたち危ないです。出来る限り遠くにいかないと、」
「待って、影山」
 菅原に制止された今にもここから飛び出しそうな影山は、叫んだ。
「俺、いやなんです!!菅原さんやこの村の人たちを殺してしまうかもしれないことが、」
 そうなるなら死んだ方がマシだ、と影山がはきすてるようにいったのに、菅原は首を静かに横に振る。
「死ぬなんて言わないで。落ち着いて。話は最後まで聞いて。」
 そのいつになく真剣な菅原の一言に、影山は黙った。菅原が口を開く。
「もしかしたら、治せるかもしれない」
 しんとした部屋に菅原の声が響いた。それに影山は目を見開く。
「なおせる…?」
 呟かれた言葉に、菅原は一度頷いた。
「俺の魔力は、魔王のと全く反対なんだ。もし、それを影山の全身に流し込むことが出来れば、」
 その一言に、影山は菅原を見つめ返す。すこしだけ影山の目に光が戻る。すがるように菅原の腕をつかんで、なら、と言おうとした影山を遮って、菅原がでも、という。
「でも、死ぬかもしれない。」
 そこで菅原は一度言葉をきって、まるで逃げまいと決意するように影山の目を見つめる。
「たぶんもう、影山の全身に魔力は回ってる。なら、及川と同じように腕や足から流し込んだだけじゃ、時間も量も間に合わない。
だからもっと別の場所、身体の中心から流し込まなきゃならない。」
「…心臓、ですか?」
 影山がそういうと、菅原はそれにうなずいた。
「ああ。それでうまく行けば俺の魔力が及川のを打ち消すはずだ。でも、うまく行かなかったら、」
 菅原はそこで言葉を切って目を閉じた。影山もその先を察して、唇をぎゅっと噛んだ。
 菅原が目を開けて、影山をじっと見つめる。
「影山、俺はお前の意志を尊重する。お前が望むなら、俺はお前の呪いを解くために尽力するよ。でももし、ここから出ていくっていっても、俺は止めない。だから、選んで。」
 その一言に、影山は少し俯いたあとで菅原と目を合わせた。
「菅原さん、俺、ここに来て、あなたに会えて、すごく楽しくて、」
 たどたどしく、少し迷うように話し出した影山に、うん、と菅原は優しく続きを促すように頷く。
「日向たちと一緒に旅して、及川さんを倒して、強くなること。それが俺のすべてでした。そのあとどうしようとか、なにも考えてなかったし、想像も出来なかった。」
 遠くを見つめるように
「でも、ここに来て、それ以外にも大切なことを新しく見つけられたような気がして、うれしくて、」
 影山がじっと菅原を見つめる。青い目はしっかりと菅原を映し出していた。
「だから、もし自分がこの村の誰かを傷つけたりとか、考えたくもないんです。もしそうならない可能性があるならそれに賭けたいし、そうなるなら、死んだ方がずっとマシです。だから」
 影山がそこで区切って、お願いしますと深々と頭を下げた。
 菅原はそれをみて、ほほえむ。顔を上げて、というと、影山は素直にそうした。菅原はぎゅっと影山を抱きしめて頭をなでる。丸い頭。指通りの良い、黒髪。
 この世でなによりいとしいひと。
「バカだなぁ。そんなの俺も同じだよ。俺だって影山を殺せるわけないだろ。」
 抱きしめながら、つぶやくようにいう。
「俺は、影山の呪いも解くし、絶対に影山を死なせない。約束する。」


prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -