愛lovesister! | ナノ




母さんのリクエスト通りカレーをつくり、味見をしていた所で、両親らは帰ってきた。エプロン姿のまま玄関へと向かうと、大層な荷物を抱えた父さんがいた。大量の衣類、「手伝おうか?」そう聞くと、父さんは首を横に振ってまた外へと戻っていった。どうやらそんなに多くはないらしい。母さんが父さんよりは一回りくらい少ない荷物を持ってきた。


「ぷはーっ!あ、ただいま莢君」
「おかえり。…春奈ちゃんも、おかえり」
「あ、…ただいま」


これまた大きい鞄(恐らく通学用のものだろう)を抱えた春奈ちゃんが、ぺこりとお辞儀をする。この大量の衣類から見ても、何度も何度も試着させられたのだろう、心なしか疲れたような表情を見せる。母さんはおしゃれ好きなので子供にもそれを強要する。本人からするといい迷惑だ。当の母さんは、けろっとした表情で俺に持っていた衣類を差し出した。


「莢君、この衣類とりあえず莢君の隣の部屋に置いといてくれないかしら」
「ああ、了解」


衣類の束をひょいと持ち上げ、狭い視界のなか記憶を頼りに足を進める。俺はまったく関与していなかったから知らなかったけれど、どうやら春奈ちゃんの部屋は俺の隣になるらしい。階段を上がり俺の部屋を通り過ぎると、空き部屋だったそこに『春奈』と書かれた可愛らしいプレートがぶら下がっていた。いつの間に。一旦衣類を床に置こうと考えたところで、ききい、と音を立てて春奈ちゃんの部屋のドアは開いた。あれ。


「あ、春奈ちゃんか。ありがとう」
「い、いえ」


ドアはいつの間にかついてきた春奈ちゃんが開けてくれたらしかった。俺の両手がふさがっている事を見越してついてきたようで。結構気がきく子じゃないか。母さんとは大違いだ。部屋に入ると、結構広いそこには、可愛らしいタンスとベッド、それにカーテンがかけられていた。明るい色を基調としたそこは春奈ちゃんのリクエストなのだろうか。だが、昨日はここにはこういった家具は無かった筈だ。俺の考えを見越してか、春奈ちゃんが言った。


「一度、帰ってきたんです」
「へえ」


そりゃあまあ、確かにあの大量の衣類と家具を一緒に持ってくることは出来ないだろうし。とりあえず衣類をタンスの近くに置いて、ある事を思い出し、一階へ戻ろうとした春奈ちゃんに待つよう告げた。すぐに隣の自分の部屋からある物を持ってきて、整然とした部屋に戻る。


「これあげる、春奈ちゃん」
「え?」


差し出したのは、近頃人気らしい猫の人形。すこしニヒルな笑みを浮かべた、桃色の猫。それは、九重に教えてもらったお店で買ってきたものだ。男二人で雑貨屋に入るのは苦行だったし、人形選びにも苦労したけれど、その分可愛いものが手に入ったと思う。九重も、ちょうど良いし、ということで妹の分を購入していた。妹思いのところは評価しないでもない。春奈ちゃんは俺の手から恐る恐る人形を受け取り、まじまじと見やった。


「もしかして、猫は嫌いだった?」
「い、いえっ!そんなこと!大好きです…」


ぎゅう、となかなかに大きい猫の人形を抱きしめ、春奈ちゃんはにへら、と嬉しそうに微笑んだ。「ありがとうございます」そう言いお辞儀をする春奈ちゃんに「敬語はいらないから」と答えて、「どういたしまして」と微笑んだ。久しぶりなので、頬の筋肉が引きつっていないことを願う。


少し遅れて玄関に戻ってきた俺と春奈ちゃん。母さんが彼女の持った人形を見て、すべてを把握したかのように優しく微笑んだ。そうして今度は俺を見て、別種の笑みを浮かべる。


「莢君?ほら、運んで」
「いたいけな息子に対して何たる仕打ち」
「もっといたいけな春奈ちゃんのために、さあ運んで」


そういわれると反論も出ない。更に山積みになった衣類を持ち上げると、「それ私の部屋に運んでおいてね」とハートマークがつきそうな勢いで告げられた。


「いや母さんのかよ!」
「いたいけな母さんのために、ね?」
「そういうのは父さんに頼んで」


とため息を吐きつつ一階の母さんの部屋へと運ぶ俺は、なんだかんだで優しいのかもしれない。いやまあ、母さんに逆らえないだけなのだけれど。先ほどより狭まる視界、ききい、と音を立てて開くドアを見て、俺はまた「ありがとう」と呟いた。


「どういたしまして」




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