愛lovesister! | ナノ




「終わった。僕もー終わった」
「うるせえな」


開口一番弱気な台詞を吐いて後ろの席である俺の机に突っ伏す友人。確かに、今日の小テストはなかなかに難しいものだった。いつもより平均点が下がっていても仕方ないだろう。たかが小テストと言っても侮ることなかれ。我が帝国学園の部活動の暗黙のルールのひとつに、「小テストで平均以下の点数を取ったものは一週間部活動禁止」というものがある。内容はそのままの意味で、だからこそ俺も、友人も、クラスメートも躍起になっているのである。だが躍起になるイコール、平均点もどんどんあがっていく、という事で。俺達からしてみると負の連鎖のようなものだ。


「音無はどうだった?」
「問3以外は埋めることができたな」
「このがり勉野郎が死滅しろ」


そう嘆いて彼は再び頭を抱え込む。こいつ、九重は小学校からの付き合いだ。昔から頭は良いという訳ではなく、逆に悪いという訳でもない。そんな彼が自分よりレベルの高い帝国に来たのは、俺がここを受験すると聞いたから、らしい。まあ現実とは悲しいもので、ハイレベルの帝国の授業に九重はあまりついてこれていない。補講の常連、サッカー部に来たことはまだ数回しかない。それでも彼が退部にならないのは、一年にしては運動神経がずば抜けているからだという。受験もスポーツ推薦らしいし。ちなみに彼は、一部でホモという噂が流れている(否定はしているが正直当てにならない)。


「大体厳しすぎるんだよこの学校」
「そんなこというなら部活来たらどうだ?部活動停止は暗黙ってだけで公言されてる訳じゃないし」
「僕の所属してる部活がサッカー部じゃなきゃやってたかもね」
「ああ…総帥な」


我が帝国学園サッカー部には、『総帥』と呼ばれる人物がいる。彼は、コーチとか顧問とか監督とかを全てこなしている。この学園の権力を握っているのも総帥だというし、そんな彼が直接指導しているサッカー部は日本一を誇る成績だ。まあその分色々と厳しいし、何よりサングラス越しに光るあの目とか…正直怖い。


「あー…また八重に怒られる」
「ヤエ?」
「妹だよ。九重八重」


なんとも重そうな名前である。


「…えっ、つか妹いんの?お前」
「え?いるけど。言わなかったっけ」
「知らなかった」


そこでふと、我が家にも新しく来た妹を思い出す。そうだ、九重なら妹の扱いとかも知っているかもしれない。なんせ本物の「お兄ちゃん」だし。そこで「俺にも妹できたんだけどさぁ」と切り出すと、何故か九重は目を輝かせはじめた。


「え、お前もいたの?」
「うん」
「どんな子?可愛い?性格は?」
「…年齢は聞かねえの?お前…範囲広いな」
「可愛ければ僕は赤ん坊だって愛せる」
「ロリコン」


ダメだこいつは当てにならない。ため息をついて尚も聞いてくる九重をしっしっと手で払う。こいつに聞いた俺が馬鹿だった。


正直、今の俺と春奈ちゃんの距離はとても離れているものだと思う。もともと俺はそこまで子供好きでもないし、ましてやいきなり「妹が出来ました」なんて言われてハイドウゾヨロシクなんて答えられるわけがない。春奈ちゃんもそれは同じだろうし、俺は自覚している通りあまり笑わない。自分より滅茶苦茶でかい無表情の相手に心を開けというのも無理な話だ。せめて、何か今の状況を壊すきっかけでもあればいいんだけど。再びため息をつくと、九重はん?と首を傾げた。


「もしかして喧嘩したとか?」
「まあ…似たような感じ」
「そんな時は何か買ってやればいいんだよ。僕は前に喧嘩したとき、あいつが前から欲しがってたピアス買ってやったけど、今でもつけてるよ。可愛いやつー」
「惚気はいらん。…プレゼント、か」


確かにそれは良いアイディアかもしれない。今財布の中身は厳しいけれど、人間関係を築くことを考えれば安い出費だ。彼女は何が欲しいだろうかと考え、俺は今朝の朝食のことを思い出した。あの時、母さんが春奈ちゃんに何か欲しいものある?と聞いて、春奈ちゃんは何か答えていなかったっけ。なんて言ってたかな。俺の席は彼女の隣だったから、聞こえていたはず。ええっと。


「ああ、お人形か」
「人形?安上がりな妹ちゃんだな。僕の妹とは大違い」


けたけたと笑って、「僕人形売ってる店知ってるけど、行く?」と首を傾げた。行く行くーと話をあわせたところで、次の授業を知らせるチャイムが鳴った。


「…次移動教室じゃね?」
「道理で教室誰もいないわけかー!」



だだ喋り休み時間




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