愛lovesister! | ナノ




春奈ちゃんがけがをしてからは、結構色々あった。たとえば、病院で見たあの子はやっぱり冬花ちゃんだったり、その冬花ちゃんは唐突に転校していったり、それを知った円堂がすごくさみしそうにしていたり…考えてみると全部冬花ちゃん関連だけど、それも仕方ないと思う。円堂の話によると、本当に唐突に転校していったみたいなのだ。理由もよく聞かされないままに。病院にいたことと何か関係あるのかとは思ったけれど、どうあがいたって俺はまだまだ子供で、それ以上かかわることはできない。だから、その理由を詮索するよりも、まずは落ち込む円堂を慰めるのが最優先事項だと思うのだ。


いつものように河川敷でボールを蹴っている円堂は、大好きなサッカーをしているはずなのに、それでもやっぱり悲しそうだった。この歳で友達と離ればなれはなかなかに辛いものだって、俺も身をもって体験している。それにこんなにいきなりだと、連絡手段もとることはできないから、下手するともう一生、会うことができない。……俺も冬花ちゃんのことを好きだったから、やっぱり悲しい。


「円堂」
「あっ…莢さんか」
「俺じゃ悪いかよ」


苦笑して、隣に座る。「寂しいよな」空を仰ぎながらそう独り言のように呟けば、円堂は小さくああ、と答えた。


「…まあ、くよくよすんな。また会えるさ」
「そうかなあ」
「ったく子供がいつまでもねちねち悩んでんじゃねーよ」


なんとなくいらっとして、円堂の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。乱暴なそれに円堂はくすぐったそうに笑った。やっぱり円堂には、笑顔が似合う。というか、まだ子供なんだから毎日元気にサッカーしてりゃいいのに。そんなことを思いつつ、ふーっと大きく息を吐いた。これは俺の憶測でしかないけれど、


「円堂がすーっごいサッカー選手になって、テレビで引っ張りだこになったら、冬花ちゃんも気づくだろ」
「そっ、かなあ」
「ああ。だから、頑張ればいいさ」


「それに」そこまで言って、俺は視線を左の方に向けた。木の陰に隠れているあの二人も、冬花ちゃんと同じように、円堂の大切な友達なのだ。


「お前は本当に良い友達持ってるんだから、少しくらい頼っちゃれや」
「…ああ!」


晴れやかな笑顔を見せてくれた円堂は、傍らに置いてあったサッカーボールを持ち上げた。そうして、一郎太達のところまで走り去っていく。直後とても賑やかで、楽しそうで、幸せそうな声が聞こえて、ふっと頬が緩んだ。


あ、転んだ。




_________




「そんな事があったのさ」
「そうか」


白黒のボールを足で器用に動かす有人君をちらりと見つめ、再び真っ白いノートへと視線を戻す。やはり喋りながらだと勉強なんて捗らないな、そう思って、買ったばかりのそのノートを閉じて鞄にしまった。今日は久々に部活に出ようと部室まで赴いたものの、俺以外には一年は数人しかいなかった。まあそれもそうだよなあ、流石にもうテスト近いし。その少ない人数の中に友人と呼べる人はいないから、やっぱりいいやと踵を返した俺と曲がり角でぶつかったのが有人君だった。丁度練習をしに来た、というので折角だからと見学させてもらう事にしたのだ。後輩の前だしたまには知的な中一でありたいと思いこうして勉強する素振りを見せてみたものの、前述の通り会話をしながら何か別の事を考えるのは俺にとっては非常に難しいことだった。うん。慣れないことはするべきじゃない。

会話、というのはまあ、なんということのないものだ。先日あったお別れの話をちらっとしただけで、ただの気紛れである。有人君もそんなに興味深いことではないと判断したらしく、耳を傾けてくれたものの意識はやはりサッカーボールにへと向けられている。別にいいけどね。


「出会いがあれば別れもある。分かってはいるけれど、やっぱり悲しいものだね」
「そりゃあ、そうだろう」


まあね。


「にしても、意外だな。莢さんは結構、ドライな方だと思ってた」
「確かにこんなだからそう思われても否定はしないけど…これでも結構、寂しがり屋な方だよ」
「へえ」
「有人君は、そんな寂しい思いを俺にさせないでね。俺有人君の事大好きだから」


それに、あんな思いはもう充分。
有人君の動きが止まり、それによって宙に浮いたボールが力をなくし地面へと転がる。反応が大袈裟だなあ。俺だって人並みに寂しいとかいう感情はあるのに。比較対象がないから充分なことは言えないけれど。行き場のなくなったボールを拾い上げ、ちらりとグラウンドの方に視線をやった。シュート練をしている部員はいないから、ゴールはがら空き。最近はこっちに顔を出していなかったし、体がなまるといけないから、久々に動かしてみようかな。



「んじゃ俺はシュート練するけど有人君は…有人君?」
「え?あ、ああ。わかった。俺もいっしょにいい?」
「オッケー」


にこやかに頷いて上着をベンチに降ろした。なぜか頬を赤くした有人君を連れ、整備された芝生の上へと足を踏み入れる。懐かしい匂いが闘争心を駆り立てた。


「…莢さんの、タラシ」
「……え?何?」



さよならを乗り越える




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