愛lovesister! | ナノ




中学校のテストは、それはもう、辛い。期末テストが近い帝国学園は、心なしかピリピリとしていた。俺達一年はともかく、二、三年は皆血走った目で何事かぶつぶつ呟いている。私立であるここは、公立より難しいし、こういう所に入るということは、高校もやはり上を目指しているんだろうし。そんなわけで、大半の部活動は期末テストまで休止することになった。案の定それはサッカー部も例外ではなく、月の初めに貰うプリントには、しっかりと休止期間が書き連ねてある。総帥はサッカーに厳しい人間だが、勉学にも力を入れている。最強の帝国サッカー部は文武両道であれ、とのことらしい。正直、ほっとした。幾ら気楽な一年とはいえ、俺だって酷い点数は取りたくないのだ。勉強はしなくてはならないし、だとすれば、時間はいる。俺には家事もあるのだし(最近両親の仕事が忙しく、夕飯は俺が作ったりしている)、ただでさえ睡眠時間を削っているこの頃、これ以上無理をすると体に響く。だから、この休止は素直にありがたかった。……とはいえ、こんなに長い期間一度も練習をしないと体が鈍ってしまうので、各々数日かはグラウンドに顔を出し、自由に練習をするよう告げられてはいる。九重は今日、早速グラウンドの方へと出向くようだったが、俺は直ぐにでも帰ることにした。部活動と同じく、授業数も幾らか減っているので、今日は早めに帰宅できそうだ。


教科書などを鞄にしまい、時計を見ながら小さく欠伸をした。そういえば今日は、春奈ちゃんはピクニックに行っていたんだっけ。しおりを持って楽しそうにリュックを背負う彼女を脳裏に浮かべると、自然と頬が緩んだ。最近は、よく笑えている気がする。それは、考えるまでもなく、彼女のおかげなのだろう。良くも悪くも、退屈しない毎日。そりゃあ、両親といた時だって、あの頃だって、退屈はしなかったけれど……、春奈ちゃんといて、本当に楽しい。そんなことをしていたら、笑みが身につくのも当然のこと、だろうか。


「なあに、にやにやしてんの、音無クン」
「うるさい」
「……無言でニヤニヤしているちょっと近づきがたいクラスメートに意気揚々と話しかけたクラスの人気者Aをあろうことかうるさい扱いするだなんて酷いとおもう」


いつものように変な絡み方をしてきた九重は、ギャグのように頬を引きつらせている。最近はこいつとばかり話しているが、別に友達が居ないわけではない。仲の良い小学校時代からの友達は皆別のクラスへとわかれ、一緒なのがこいつというだけで。一人ぼっちではないし、クラスメートとも会話をするほうなのだが。……なんだか、弁明すればするほど、泥沼にはまってしまっているような気がしなくもない。


「いやー噂は聞いているよ音無クン。なんでも、最近ロリショタを次々と虜にしているんだってね?羨ましいったら」
「身も蓋も無い言い方だが、ちょっと俺に殴らせろ」
「エッ酷い…でも、事実だろ?」
「…まあ、半分な」


確かに、一概に嘘とは言いきれない。最近はご近所さんの空介やつくしちゃんとか、円堂の幼馴染である一郎太、京とかと交流を深めつつあることだし。空介はやんちゃざかりの悪戯少年で、前にプレゼントした帽子を今でも愛用してくれている。つくしちゃんは優しい性格で、気配り上手な将来有望な女の子。一郎太や京は円堂のストッパーといった所で、まだ小さいのに苦労しているなあといつも思う。そんな彼らと歳の離れた俺が仲良くさせてもらっているのに、虜、という言い方は少しないんじゃないだろうか。そう説明すると、九重はふうんと呟いた。


「君、きっと良い保育士さんになれるよ」
「……ああ、最近俺も出来るんじゃないかと思ってきている」


問題は表情だが。常に無表情な保育士なんて怖すぎる。そりゃあ最近パターンも増えてきてはいるが、まだまだ表情豊かな人間とは言えないし。と、そこで九重は時計のほうに目を向けた。俺もちらりとそちらに視線を向ける。そろそろグラウンドが開放しているんじゃないだろうか、そう思うと同時に、九重がにへらと笑った。


「っと。じゃあ僕、そろそろグラウンドの方に行くよ」
「もうそんな時間か。俺も帰るわ」
「ばいばい。月のない夜に気をつけることだな」
「あからさまなフラグを立てていくなよ…」


はあとため息をつきながら立ち上がって、鞄を持ち上げる。今日は辞書を数冊持ってきていたので、普段より幾らか重い。それでも、成長期の男子には苦にはならない。伊達にサッカー部やってないしなあ、と考えながら、椅子をひく。


「練習頑張れよ」
「おう」
「……っと、音無君はいる!?」


背伸びをしたところで、がんっ、と音を立てて教卓側の扉が乱暴に開かれた。まばらではあるが、俺たちと同じように教室に残って談笑をしていたクラスメートが、ちらりと視線を合わせる。そこにいたのは、担任の教師だった。長い髪を振り乱していることから、走ってきたんだろうと推測できる。「いますけど、どうかしましたか」そう声をかけると、此方に気づいた先生ははあっと思い切り息を吐いた。


「あ、のね、音無君。いまさっき貴方のお母さんから電話が入って、」

「妹さんが、事故に遭ったって……」


不協和音




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