「アイシー、髪切るの?」 「ええ、そのつもりよ」 さっそく鋏を手にし、髪を横に束ねた私を見てなまえが首をかしげる。 「なんで?」 「そりゃあ、切りたいから」 男になれば良い、先ほどはそう思ったけれど、よく考えてみたら女が男になるのはとても難しい話だ。お金とかもかかるし、何より、なまえと一緒にお風呂にはいったり出来なくなる。それは、いや。なら、私が男の子っぽくなれば良いのよ。口調も改めて、牛乳飲んで背伸ばして、そしたら、なまえも私を見てくれる。かな。 「ふうん」 彼女は、私の望んでいた反応とは違うものを見せた。不機嫌そうに唇をとがらせてみせたのである。そんなところもかわいらしいと思う私は結構末期なのだろうか。 「私は、やだな」 「…どうして?」 「アイシーの長い髪、好きだもん」 ちょ、ちょっとちょっとちょっと、なに、いまの。急な展開すぎて思わず彼女を凝視してしまう。だ、誰かテープレコーダーもっていないかしら!録音!録音! 「そ、そうなの?」 「うん、さらさらしてて、きれーで、私、アイシーの髪いじるの好きだから」 そういえば、なまえはいつも私の長い髪を結んだりして遊んでいた。さすがにそこまで言われて切るのも忍びないので、「じゃあ、やめる」と言って鋏を置いた。きらりと光った刃にはだらしなくにやける私が映っていた。 |