■ 今日で子供を卒業します


何を思ったか土方は急に、走らせていた車を道の脇に寄せた。
そして煙草を取り出して火をつけようとしたところで、何かを思い出したようにライターをしまい、まだ口をつけただけにすぎないそれを灰皿の中にねじ込んだ。

「十四郎さん?」
「…ってるっつの」
「え?」
「お前が俺のことを好きなことぐらい、とっくの昔からわかってんだよ」

決まりきったことのようにきっぱりとそう言われ、美結はしばし呆気に取られた。
…どうしてみんな私本人が知らないことを当然のように知っているんだろう。

「私は今日気づきました」
「…だろうな」

はぁ、とため息をつく土方。美結はその様子をドキドキしながら眺めていた。

「ご、ごめんね…?」
「だからなんで謝んだよ」
「だって十四郎さんは私のこと、本当の妹みたいにかわいがってくれたのに…私の方はなんかブラコン通り越して変な方向行っちゃった感じで…」
「…はあああ」

さらに大きなため息。美結の肩がびくりと揺れた。
予想外の反応ばかりされるから困る。心臓に悪い。いっそ「馬鹿じゃねぇのか」とかばっさり斬ってくれる方がいいと思う。

「だーかーらー」
「は、はい」
「俺は、お前が俺のことを兄貴として見てねぇことは知ってたんだっつの!なのに俺だけが、お前のことを妹だなんて思えるわけねぇだろ!」
「…へ?」

じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃああなたは今まで私をなんだと思っていたんですか!?昨日のあの兄妹じゃねぇって台詞は、『もう兄妹じゃない』じゃなくて『妹だなんて思ったことはない』的なニュアンスだったの?
ひ、ひどい…!

「おい何勝手にショック受けてんだ。…ったく、泣きてぇのはこっちだっつーのに」

抱きすくめられて、美結は顔を土方の肩口にうずめた。濡れた髪のせいでその肩に染みが広がる。
ひゅっと美結が息を呑んだ。

「おめぇが気づいてねぇんなら俺のこんな気持ちは一生晒すつもりはなかったし、一生お前の『兄貴もどき』でいてやるつもりだったよ。なのにおめぇは人の気も知らないで、いきなり理性ぶっ飛ばしにきやがって…」
「え…?」
「そんで、とうとう気づいたのかって期待させられて。けど次の日には男なんか作ってきやがるし、帰ってもこねぇときた。俺が一体どんな気持ちだったか、おめぇにわかるか」
「ええっと…」
「手に入れることは諦めてた。けど俺ぁ…てめぇの体を大事にしない行動なんか、してほしくなかった」
「ご、ごめんなさい…」

土方が美結の首筋に唇を這わせる。そして時折強く吸い上げた。一昨日美結がつけられたキスマークの上だ。消えかかっていたそれは、再びくっきりと華を咲かせた。

「ん…」

短いスカートの中に入り込んできた無骨な手が、美結の太ももを撫でる。
一昨日の青木君相手では一切何も感じなかったのに、一連のこれだけで体が熱くなってきたことに恐怖に近い何かを覚えてしまう。
気づけば美結は土方の隊服にしがみつき、必死で声を抑えるはめになっていた。

「美結…」
「ん、…」
「好きだ」

吐息を含んだ声で告げられ、美結の瞳は一気に滲んだ。

私もう、子供やめちゃってもいいんだね。




 
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