■ 大人でも子供でもない


長かったような短かったような一夜が明けると、美結はさすがに屯所へ戻ろうと青木君の家を出ようとした。
しかしそこで二人が気づく。
靴が無い。
美結は靴下も履いていなかったし、サイズ的にも、青木家のもので履けそうなものは一つもなかった。
美結は仕方ないしこのまま帰ると言った。だけどそれを許さなかったのが青木君。家の人に連絡を入れて靴を持ってきてもらうか自分におんぶされて帰るか、という二択を美結は迫られた。
そして美結は前者を選んだ。青木君の希望は後者だったが。

「大丈夫か?昨日は家でなんかあったんじゃねぇの?」
「うん、でも…帰ってみんなから一斉に怒られるより、ここで先に一人から怒られとく方がいいかなって」

電源を切っていた携帯を取り出し、恐る恐る起動させる。着信103件、メール67件。
…お、おそろしい!携帯を横から覗き込んだ青木君までもが青ざめた。

「あー美結、その…俺殴られることも覚悟してるから」
「…いいよ、青木君は何も悪くないもの」

悪いのは、全部私。
美結は兄に電話をかけた。それから5分後、盛大に息を切らした兄がやってきた。

「い、いたー!美結!お前俺がどれだけ心配したと思って…!」
「ごめんなさい、兄さん」

涙と鼻水だらけの顔で近藤は美結を抱きしめた。寝ていないようで、うっすらと隈も見える。こんなに疲れた顔の兄を見るのはいつぶりだろうか。
一方隣で青木君は、この兄妹似てねぇなーと思っていた。

「あ!お前かああ!うちの美結をたぶらかしたのはああああ!」
「え!?」
「あ、ちょ、兄さん待って!違うの、青木君は親切心で私のこと泊めてくれただけなの」

近藤に一発ぐらい殴られることを覚悟していた美結だったが、標的はお隣へ移ってしまっているようだった。覚悟してるとは言ってくれたけど、その覚悟に甘えちゃいけない。

「殴るなら私だよ。私が全部悪かったの」
「美結…」

じゃあ一発だけ。と、近藤は拳を作り、コツンとそれを美結の額に当てた。

「もう余計な心配かけさせるな。お兄ちゃん美結が誘拐でもされたかと思ってそこらへんの怪しそうな人間片っ端から斬って回っちゃったよ」
「兄さん!?」
「あはは、冗談だ。じゃあ青木君とやら…妹が世話になった、ありがとう。君とはまた今度じっっっくり話をするとして、今日は帰らせてもらうよ。行くぞ美結」
「え、あ、ちょっと待って、靴を…!」
「あ」
「え?」
「持ってくるの忘れた」
「………」

結局美結は近藤におんぶされて帰った。まぁ、青木君にされるよりはマシか。

「美結、さっきの男はいい奴か?」
「ん?うん、すごく」
「そうか、なら俺は反対はしない。けどな、我が家では無断外泊なんてもんはどんな事情があろうと禁止だ」
「うん、わかってる…」
「あと婚前交渉はちゃんと避妊をするんだぞ、できちゃった婚とかお兄ちゃん悲しいからな」
「…………兄さんからそんな生々しいこと聞きたくない」
「大事なことだ。女子高生は、もうガキじゃねぇだろう」

「…………」




 
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