■ 無自覚犯と確信犯


新発売のお菓子を持って副長室に突撃。
しかし部屋の主は机に突っ伏して眠っていた。めずらしい。

「疲れてんだなー」

美結は一旦部屋を出て、それから毛布を手に戻ってきた。それを土方の背にかける。そして満足すると彼の正面に回って腰を下ろし、コンビニで昨日買った新商品のお菓子を開けた。バリボリ。うーん、いまいち。

お菓子に飽きると美結は土方の寝顔を観察し始めた。
起きてるとやっぱ目つき悪いのだけ目立っちゃうけど、寝てたらさすがに鬼には見えないなーむしろ無垢?てか結構かわいい?かっこいいのは知ってたけど。あー、こりゃモテるわけだよなぁ。

つんつん。鼻を突いてみる。…起きない。
なんだか昔もこんなことをしたことがあったな、とふと思い出した。いつのことかはわからない。子供が苦手だと言っていたはずのこの人は、昔から、なんだかんだ一番私の相手をしてくれていた。だからいつも一緒にいた。一番懐くのは、当然のことだった。不器用だけどやさしい、そんな人に。

こんどは指二本を使って眉間に皺を寄せさせてみる。あ、いつもの顔っぽくなった。てか起きないなぁ。いや、起こしたいわけじゃないけど。いつも仕事をし過ぎるぐらいの人だから、寝れる時にはちゃんと寝てほしい。
…そう、思ってるはずなんだけど。

いたずら心が消えない。

美結は指先を土方の唇に伸ばした。そしてそっとそれをなぞってみると、何故か背筋がぞくりと粟立ったような気がした。
これ以上はだめだ。美結の中の何かがそう告げる。だけどそんな美結の意思とは無関係に、体は動いていた。
机に手をつき、腰を浮かせる。そして徐々に顔を近づけて…先ほどなぞった土方の唇に、自分のそれをそっと重ねた。

我に返るまで、そう時間はかからなかった。数字に示せばコンマ数秒。その一瞬をもって全力で彼から離れようとする。だけど何故か途中で頭を後ろに引くことが出来なくなり、さらに何らかの力が加えられ、美結の唇は再び同じところにぶつかった。
それから角度を変えて、何度も繰り返されるキス。
息が苦しくなったあたりで、ようやく美結はそれは土方が意図的に行っているものであり、先ほどから逃げないようにと後頭部に加えられている力も土方のものであると理解した。
そしてそれに気づいた途端、体中が熱を帯び、心臓の拍動は尋常じゃないほどに速くなり、口からはありえないような声が漏れるようになった。
何これ、信じられないぐらい恥ずかしい。

「っは―――」

やっとキスから開放されると、ずりずりと後ずさりながら美結は乱れた息を整えようと浅い息を繰り返した。
ふと土方の顔を見上げると、水気を帯びた妙に艶めかしい唇が一番に目に飛び込んできた。慌てて視線を顔ごと逸らす。顔が熱い。口の中が煙草の味。

「美結…」
「な、ななな何、十四郎さん…!」
「誘ったのは、おめぇの方だからな」

人の気も知らねぇで、とんでもねぇことしてくれやがったな。

いつもの倍、眉間に皺が刻まれた顔で土方はそう言い放つ。
そしてもう一度、未だゆでだこ状態な少女にキスをした。




 
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