Oh my little girl !

▽ How old are you ?


「ゆっきーおいしい?」
「うむ!とても美味にござる!」

幸村のその返事を聞いて、心愛はよかったぁと顔を綻ばせた。
その表情を見てぽやーっと心を和ませている幸村の手の中には、今日のために用意されたずんだ餅。
ほわほわと陽だまり色の空気を漂わせている二人は、客間にてさっそくおやつタイムを満喫していた。

「ちちうえー。ゆっきーおいしいって。よかったね」
「な!だ、だから何だってんだ。オレはんなもんどーでも―――
「しってるよ。ちちうえゆっきーたちがくるまえにこれ、がんばってつくってたんでしょ?」

ぎく、と心愛の隣に座る父上こと政宗は固まる。
なぜ知っているんだ、と目が語っていた。
それに対して、信玄も幸村も後ろに控える小十郎も天井裏の佐助も、堪え気味の笑いをもらす。心愛の前では奥州筆頭も形無しだ。

「心愛よ、そなた歳は?」

見た目年齢三つの割に随分と聡い心愛に信玄が尋ねた。

「じゅうろくです!…ん?あれ?じゅうごだっけ?」

…ちーん。

皆、どうすればよいものかと固まった。
確かにそれぐらいの知恵はあるように思える。が、どう見ても十六や十五の女には見えない。せいぜい多く見積もっても四つほどだ。

そんな空気にもちろん心愛は気づいている。
かといって場に合わせて「みっつです!」なんて心愛には言えなかった。
自分は十六歳の藍須心愛だ。三歳児などではない。

「十六の割には小さいbodyじゃねぇか。身長伸びなかったのか?」
「ふつうにのびてたよ!きゅうにちぢんじゃっただけ!」

明らかに馬鹿にしたような態度の政宗。
心愛は無駄だとは思ったがとりあえず事実を言っておいた。
何を言おうと証明などできないし、理論も何も話せやしない。どうせ伝わらないのだ。馬鹿馬鹿しい。

「十六なら某とは一つ違いでござるな心愛殿!」
「へ?」

嬉々としての幸村の言葉に心愛は目を丸くする。
信じてくれるの?さすがゆっきー話がわかる!

そう思って心愛が目を輝かせていると、その頭にぽんと彼の手が置かれた。
そして、少々不器用ながらもやさしく撫でられる。
…おかしい。

「ゆっきー…わたしがじゅうろくだって、ぜったいしんじてないでしょ」
「そのようなことはないぞ?」
「うそだ!じゅうろくさいのおんなのこあいてに、ゆっきーがあたまなでなでなんてするわけない!はれんちだよ!」
「な!」

振り払われた手とその心愛の言動に、幸村だけでなくその場の全員が驚いた。
名前ならまだしも、幸村が重度な初心だということや、十八番の台詞である『破廉恥!』のことまで知っているとは。
まさかわざわざそんな教養を受けることなどないだろうに。

「心愛殿…某、心愛殿とどこかで会ったことがあるのでござろうか…?」
「そんなのあるわけないじゃん!きょうはじめてあいました!はじめましてっていいました!」
「そ、そうであったな…」

では政宗殿が教えられたのか?
そう幸村が視線を送るが、政宗は黙って首を横に振る。
政宗は政宗で、我が娘の奇怪さに驚いているのだ。

「もう!こんなかしこいさんさいじがいるわけないでしょー?どうしてじゅうろくだってしんじてくれないの」

政宗たちは、なぜ自分たちが目の前のちんまいのに怒られているのかわからない。
信じるも何も…

「心愛…」
「なに?」
「オレぁ右目はねぇが、左目はちゃんと見えてるんだぜ?」

要するに、俺の左目には三歳児しか映ってねぇよ、と。

「うわーん!ばかむねにばかにされたー!おやかたさまぁああ!!!」
「ばかむねって言うんじゃねぇ馬鹿!」

泣きマネをしながら飛びついてきた心愛に苦笑しつつ、信玄はそれをやさしく受け止める。
幸村がその様子をうらやましげに眺めているが、心愛は気づかない。
それどころではないのだ。今は信玄のモフモフを体感することに頭がいっぱいだから。

どさくさに紛れて、今までの願望を叶えてみた心愛。
予想通りのモフモフさに、ついうっとり。

「大体なぁ…お前は、オレに自分が十六だと信じさせてどうしたいんだ」
「へ?」
「オレは十九だぞ?三つしか違わない娘なんていろいろ問題アリだろ」
「………」

きょとん。
信玄から離れて正座し直してから、心愛は政宗の言葉を考える。
そしてしばらくして、もっともだと頷いた。

「じゃあ…しかたないか。うん、いいよ。わたし、さんさいってことにしとく」

さっきの政宗の説明で理解できたのかこの子は。
誰もがそう思ってそうゆう視線を心愛に向けた。が、考えるだけ無駄だと思ってすぐにその視線を解く。心愛だからと無理やり納得した。

「よし、それでこそオレの娘だ」
「いってるいみがよくわかんない」

問題アリだと言われてそれをすぐ回避しようとするあたり、いつの間にか親子としての愛情を向けられることを望んでしまっている様子の心愛だが、本人にその意識はない。
伊達政宗の娘として扱われることに、いつの間にか違和感を失くしてしまっているのだ。

「心愛殿…結局のところ、某は心愛殿を三つとして扱っていいということでござるか?破廉恥ではないか?」

なぜか幸村は、少々どぎまぎした様子でそう尋ねる。
彼は、撫でていた手を振り払われたことに少なからずショックを受けていたようだ。

「いいよ。じゅうろくさいじゃなくなったから」
「さ、左様か…!」

嬉しそうにぱぁぁと笑って。
再び心愛の頭に手を置いた。

なぜそんなに頭を撫でたいんだろう…
心愛は不思議で仕方なかった。

「てめぇ…さっきから人の娘に気易く触ってんじゃねぇ」

ばっと急に幸村から引き剥がされた心愛。
政宗に抱きすくめられ、驚きにポカンと口を開く。

「な!ケチでござる政宗殿!」
「ケチじゃねぇ!」

バチバチバチーっと雷が散り始め、ぶわぁーっと炎が燃え始める。
政宗の腕の中、心愛は震えあがった。

「あ、あぶ…」

その後、二人はそれぞれの親――小十郎と信玄によって叱られることとなる。






(これしきのことで心を乱すとは何事かゆきむらぁ!)
(も、申し訳ございませんおやかたさむぁあ!)
(ゆぅきむるぁあああああああ!!!)
(おぅやかたさむぁああああああ!!!)
(すごいすごい!ほんもののたけだめいぶつ、なぐりあい!)
(…なんでこれ見て喜べるのか、オレぁお前がいまいちよくわからねぇ…)

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