▽ Is this a date?
「Hey心愛!城下へ行くぞ!」
「へ?!」
「Are you ready!?」
「い、yeah!?」
朝っぱらから興奮状態で拳を突き上げた変わり者親子。
突然の父の発言に娘の方は若干戸惑い気味だが、それでもやはりノリはいい。ツッコミを入れる気などさらさらない。
そしてそのノリに気をよくした父親は、じゃあさっさと行くぞと歩き出す。
当然、その父親の傍らに控える優秀な従者は、今日も今日とて頭を抱えた。
「政宗様…!執務はどうなさるおつもりですか…!」
そんな悲痛な言葉も、二人の世界へと飛び込んだこの親子には聞こえることがないということを、彼はここ数日で痛いほど理解していた。
***
「わ…すごい、にぎやかだね…」
「そうか、kittyは城下に来るのは初めてか」
「うん!」
政宗の着物の袖を握りながら、初めて見る光景に心愛は目を輝かせる。
現代っ子の、しかも都会っ子の心愛にとっては、飴細工や茶屋や呉服屋など、初めて見るものばかりだから。どれもこれもめずらしくて仕方なかった。
「ねーねーまさむね、あれ―――」
「Stop!」
「?」
「『政宗』じゃ目立つ。今はお忍びできてんだからな。父上と呼べ」
「むー」
「呼ばねぇなら帰るぞ」
「ちちうえーここあはあのみせにはいってみとうございますー」
「…現金なやつだな」
似合わないからその口調はやめとけと言われ、素直に頷く。
藤次郎と呼んでやろうかとも思った心愛だが、まだ帰りたくはないので言われた通りに従うことにした。(なぜその名を知っている、とも言われそうだ)
まぁ父上と呼ぶことに未だ抵抗はあるが、嫌なわけではない。
「きれいだねー」
商品が並べられた台上を見るには身長が足りない心愛。
よって政宗に抱き抱えられながら、簪やら櫛やらを眺めた。
一つ一つ手作りのそれは、なんだか暖かみが感じられるように思えて不思議だ。
「どれか欲しいものあるか?」
何でも買ってやるぞ、とさすがお殿様は太っ腹。
だが心愛は、別にいいと首を振った。…決して、つい貧乏性を出してしまったわけではない。そう言い訳をするつもりで、自分の頭に挿している青い玉簪を指差して、一言。
「ちちうえにもらったこれが、やっぱりいちばんかわいい」
ずっきゅん。
娘の笑顔は、容易に養父の心臓をぶち抜いた。
「え、なにちちうえ、ちょ、ぐるじ…!」
ぎゅううと力の籠り始めた腕に締め付けられる心愛。
ギブギブ、と必死にその腕を叩いた。
普段は冷めてる父親だが、なんだか突然変にスイッチが入ったりする。
そのスイッチがどこにあるのか掴めない彼女にとって、この暴走は悩みの種の一つだったり。
「ち、ちちうえ、つぎあっちいこ…!」
「OhーOkey.」
やっと解放され、スハァーと大きく息を吸う。
可愛いがってくるのはいいが、もう少し加減というものを覚えてほしいと思う、今日この頃。
それから二人は、だんだんと人が増えてきたこともあり、仲良く手を繋いで街を巡った。
茶屋に入って団子を食べ、ガラス細工が売っている店では一つ置物を買ってもらって。
呉服屋では政宗に似合う生地を心愛が選び、その生地で着物を仕立ててもらうことにして。
充実したショッピングだと思う。心愛はずっとご機嫌だった。
そして、そんな楽しそうな娘を見る政宗もまた、終始頬を緩ませていた。
事が起きたのは、そろそろ城へ戻ろうかと政宗が言い出した時。
どこからか聞こえてきたのは甲高い女の悲鳴。ビクリと心愛は肩を震わせ、政宗と繋いでいる手にぎゅっと力を込めた。
「ちちうえ…」
「Ahーどこのどいつだ、オレの地で問題起こしやがるfool野郎は」
そう言いながら悲鳴の聞こえた方へと進もうとする政宗。
だが、ふと足を止める。
見据えたのは、不安げに自分を見上げる娘の存在。
どうしたものかと政宗は頭を掻いた。
連れていくのはよくないだろうが、初めてやってきた城下に一人置いて行くのも不安だ。
「なにしてんのちちうえ!はやくいかないと!」
しかし政宗のそんな思いを知ってか知らずか、急げと娘はその手を引く。
まだその瞳は不安げに揺れている。
だが政宗は思った。
これは怯えている目じゃない。
「ってゆうかちちうえかたなもってないじゃん!もうどうすんの!」
悲鳴を上げた女を、心配して。
けれど助け出す気はまんまんで。
ちっこいくせにこいつ…
そう思い、思わず政宗は苦笑した。
当然、それを見た心愛は怒って眉間に皺を寄せる。
「なにわらってんのー!?もう、かたななんかなくてもすででじゅうぶんだぜってこと?じゃあさっさとはしる!」
「へいへい」
女の心配はすれど、養父の心配はしないらしい。
「まぁそんだけ信頼されてるってことか」
ポジティブシンキングな自己完結。
だがまぁそれは、あながち間違ってはいない。
その後政宗は、男三人に絡まれていた女を助け出した。
お礼にとその女が自分の店へ政宗を呼ぼうとするのを、心愛がなぜか必死に制したというのは…また別の話。
(ねーねー、こじゅーろーたちにおみやげかってってあげようよ)
(そうだな。お前が笑顔で渡せば遊び過ぎたことも怒られねぇかもしれねぇ)
(よし!わたしがんばる!)
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