Oh my little girl !

▽ new family


城主である伊達政宗の自室の前にて。
心愛は襖にへばりついて耳をすませながら、その部屋の中の声を窺っていた。

「何度も言いますが政宗様…なりませぬ。どこの者かもわからぬ子供をいきなり城に住まわせるなど…」

その声は、常々胃痛で悩まされていると言う伊達政宗の右目、片倉小十郎。
昨日初めて生で見た時は、ヤーさんだ。マジでヤクザだ。と、ビビり気味の興奮を覚えた。

そのヤクザさんが今、気まぐれな殿に対して文句を言っている。
もちろんその内容は心愛についてだ。

どうゆうことかというと、心愛は順調にここでのスタートを切ったように思われたが…
そうポンポンと上手くはいかなかった、ということ。
とりあえず昨日はご飯も風呂も寝床も与えてもらえたが、小十郎が納得をしていたわけではなかったらしい。

これはマズい。非常にマズい。もし追い出されでもしたら…三日と経たずにポックリだろう。
この世界の知識が豊富とは言えないし、頼れる人もいないし、そもそもこんな姿じゃ自分で生きていく術なんかない。
今の自分は、誰かに助けてもらわなければ生きていけないいたいけな幼児だ。
なんとしてもここは、政宗に小十郎を言い負かしてもらわなければ困る。

今朝政宗にずっとここに住めるようにしてやるとは言われたが…
ちゃんと有言実行してくれるのかは怪しいところだ。

「ったく、おんなじことばっか言いやがって…オレはもう決めたんだ。あれはここで世話する」
「…どこかの間者だったらどうするのですか」
「間者?Ha!んなわけねーだろ。間者だったら…」

そう言いながら政宗は立ち上がって部屋の入り口へと移動する。
そして襖に手をかけて、一気に引いた。

「うびゃっ」
「間者だったら、聞き耳ももうちっとぐらいマシに立てるさ。」

急に襖を開けられて、襖にへばりついていた心愛は案の定見事に畳の上に倒れる。
政宗はその心愛の襟首を掴んで持ち上げ、その状態のまま移動して、元いた位置へと戻った。

ぐえっとなりながら宙ぶらりんで移動させられる幼児を、小十郎は憐れみの目で見る。
政宗はもちろん親切のつもりで心愛の世話をしようとしているのだが…
他に里親を探してやろうとしている自分の方が、この乱暴な殿様よりよっぽど親切だろう。と、小十郎は思わざるを得ない。

「なんにしても、犬猫を拾うのとはわけが違うのですよ。これだけ小さかろうと、人間なんです」

もちろんですよ。何を当たり前のことを。
心愛は今更ながら、自分の身をリアルに心配した。
さらりとなんとなくヒドいですよ。十九歳の人間に今さら諭すことですかそれが。

「んなのわかってるさ。大丈夫だ。ちゃんとオレの娘として育てる」

…初耳です。

え、娘?娘になっちゃうの?本人に話しとこうよそうゆうのは。
心愛は政宗の隣に座った状態で、驚きを隠せずに彼を見上げる。が、そんな視線に政宗は一切気づいていない。
ニタリと不敵な笑みを浮かべて、『はぁ?何言ってんですか』という顔をしている小十郎を見据えている。

「…まだ妻も娶られていない方が、何をおっしゃいますか。順序がおかしいでしょう」
「関係ねぇな」

不敵な笑顔のまま、わがままな子供のようなことを言う一国の主。
関係ないこともないと思うんだけどな…。
だがその言葉は黙って呑み込んだ。

「政宗様…!」

ついに小十郎がちょいギレの域に到達する。
あ、マズい。もうこれは便乗するしかない。

プライドを脱ぎ棄てて恥を着こむ覚悟をした心愛は、さっと立ち上がって政宗の背中に隠れた。
そしてちょこっと横から顔を覗かせて小十郎を見つめる。
小十郎は驚いた顔をして、同様に驚いている政宗と心愛の顔を交互に見つめた。

「ちちうえ…あのおじちゃんこわい…」

せいいっぱい可愛らしい声で、せいいっぱい幼い子供の演技をして、ギリギリ小十郎にも聞こえるぐらいにポツリと言った。
心愛は羞恥に悶えたくなったが、ここで崩してはいけないと我慢する。

一方政宗と小十郎は、二人揃ってまぶたガン開き。
政宗を父上と言ったことにも、小十郎をおじちゃんと言ったことにも、もう何と言っていいのかわからないぐらいに驚いていた。

「ぶっHahaha!おじちゃんだとよ小十郎!」
「お、おじちゃん…」

そっちが先か。
父上発言後回しか。そこが一番がんばったところだというのに。

「ほらおじちゃん。こいつだってオレを父上だと認めてるじゃねぇか」
「おじちゃんはやめてください。…ちゃんと世話するんですよ。途中で投げ出さないでくださいね」
「おう!任しとけ!」

…犬猫を飼うような会話じゃないか。お母ちゃんと小僧の会話じゃないか。
でも、もう何でもいい。追い出されなきゃそれでいい。
心愛の心は疲れ切っていた。




―――――こうして心愛の第二の人生が決まった。
それが奥州筆頭、伊達政宗の娘。





(ええ!?こじゅーろーってにじゅうきゅうさい!?しらなかった…!)
(…何か文句あるのか)
(ないですすいませんゆるしてください)
(…そこまで怖がらなくていい)


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