Oh my little girl !

▽ big step


朝目を覚まして、政宗は昨日拾った子供の様子を見ようと部屋を出た。

変わった子供ではあるが、あれは十中八九、戦で村を追われた子供だろうと政宗は考えている。
故に、守ってやることができなかった罪滅ぼしを何か少しでもしたいと思ったのかもしれない。

昨日はいたってケロッとした様子でいたが…平気な顔をしていても平気なわけがない。きっと何もかもなくしたのだ。家も、友も家族も。
あんな幼子が一人きりの部屋で目を覚ますのは不安に違いない。
彼が幼少の頃にはそういった経験が少なからずあったため、その気持ちは痛いほどわかった。ならばせめて、あの子が目を覚ます前に傍にいてやろう。

随分と冷たい廊下を歩きながら、庭の方に目を向ける。
そろそろ庭の木々が色づいてきており、もう紅葉の季節だな。などと考えた…
その時、視界に小さな子供が映り込んできた。

思わず「あ」などと呟いて、政宗は立ち止まる。
どうやら自分よりも早くあの子供は起きだしてしまったようだ。これでもいつもよりは早く起きてきたというのに…

「Shit…」

起きてしまったものは仕方ない。
開き直って、井戸の前で立ちすくむその小さな存在に歩みよった。
一体何がしたいのか、ただ井戸の前に突っ立つ子供。
What's happen?と政宗は声を掛けた。

「あ、おはよう」
「…Good morning.」

心愛は政宗の問いには答えず、嬉しそうにぱあぁと顔を輝かせて笑った。
やはり不安だったんだろうなと政宗は勝手な解釈をした。

「よく眠れたか?」
「うん。なんかひさしぶりによくねた」
「…そうか」

どうせ強がりだろう。
と、またもや政宗の勝手な自己完結が生まれた。
が、強がりでも何でもなく…幼い子供の体となった心愛は本当にぐっすりと眠りこんでいた。
彼はある意味心愛を美化しすぎである。

「で、お前何してたんだ?」
「かおあらおうとおもってこっちきたんだけど、みずがくめなくて」
「Ahーそりゃそうだな。お前みたいなチビじゃ無理だ。」
「………」

…睨まれてる。超睨まれてる。

「…ちびになりたくてなったわけじゃない…!」
「そ、sorry sorry」

何やらものすごく癇に障ったようだ。
これ以上からかうのはやめておこうと、とりあえず水を汲んでやった。

「ありがとう」
「Your welcome.まぁ…これからも水が汲みたい時は、誰か呼べよ。里親が見つかるまでちゃんとここで養ってやるから。城内も自由に動いていいからな」
「ほえ!?」
「…?What's wrong?」

何もおかしなことは言っていないはずだが、なぜか奇声をあげられた。
目をまん丸にしている子供を見下ろし、政宗は訝しげな顔をする。
…一体何だ。

「さとおやがみつかるまで…!?」
「…?That's light」
「ずっとここでせわしてくんないの…!?」
「…Ah?オレぁんなこと言ったか?」

「そんなのやだーーーー!!!」

「!?」


奇声の次は急に叫びを上げた心愛。
こいつ大丈夫か…?
政宗は本気でそう少女の心配をしたが…別に情緒不安定なわけではない。

「わたしはここがいい!ほかのとこなんかいきたくない!」
「Ohー…随分とわがままなgirlだな。昨日今日でそんなにここが気に入っちまったか?」
「そんなのわかんないよ」
「Ah?」
「ああ、ごはんはおいしかったけどね。でもあとはねただけだし。とくにこれといって…」
「…じゃあなんでだ?」

せっかくの、ゲーム世界の主人公と一つ屋根の下なんていうおいしいシチュエーションを逃してたまるか。
…なんて言えない心愛。瞬時に、必死で言い訳を考えた。

「だって、わたしはここにいるべきだから!」
「…What?」
「あんなくらくてひろいもりのなかで、まさむねはわたしをみつけてくれたんだもん」
「?」
「もーわかんないかなぁ。あのであいはね、うんめいだったんだよ!」
「…Fate?」
「そう、うんめい!こんなちいさなからだの、しかもころんでねそべってたわたしを、
 まさむねはどうやってみつけたの?きっとなんとなくしかいにはいっただけでしょ?
 もしかしたら、みすごしてたかもしれない。まったくきがつかなかったかもしれない。でもまさむねは、わたしをみつけて、こうしてしろにまでつれてきてくれた。
 かみさまがあたえてくれた、ひつぜんてきなであいだとかおもわない?」
「………」

ポカン。
政宗は間抜けにも口を開けたまま固まった。

何を言い出すかと思えば…運命だときた。
舌っ足らずな言葉で、精一杯饒舌に。しかも何かすごいことを言っているように聞こえるが、ちゃんと考えてみれば、当然のことしか言っていないのだ。
出会いとは大体そうゆうもので、偶然の上の奇跡のようなものの上に成り立つもの。
言わば、どんな出会いであろうと、運命だと言ってしまえば運命なのだ。
無論、同様に必然だと言ってしまえば必然で。

それをこの子供は、こうして必死に話す。
自分との運命を感じさせるために。
この出会いは神が与えたものだと信じさせるために。

「HAHAHAHAHA!!!!」

政宗は大いに笑った。それも腹を抱えて。
運命を語る子供など初めて見た。
変わった子供だとは思っていたが、やはりとことん変わってる。

「わらうなぁ!」

咄嗟に考えた言い訳ではあったが、自分でしゃべっている内にその言い訳がまんざらでもなくなっていた心愛。
政宗の馬鹿にしたような態度に、顔を歪めた。
だって心愛はそもそもこの世界の人間ですらないのだ。もうこれは完全に神様に仕組まれたとしか考えられない。

「…!わたしは!」

未だ腹を抱えて苦しそうに笑う政宗に向って、心愛は声を張り上げる。
するとようやく落ち着いたのか、目尻の涙を拭いながら彼は心愛を見下ろした。

「わたしは、とおかまえ、たったひとりのかぞくだったははおやをなくしたの」
「!」

嘘ではない。
戦ではないが。事故で、突然に。

「かなしかった。すごく。だからいっぱいないた。なんにもするきがおきなくて、ずっとぼーっとじかんをすごしてた。それで、きのう…きがつけばあのもりにいた。」
「………」
「なんもわかんなかったよ。じぶんがどこにいるのか、なんでそこにいるのか。わたしがうごいたきおくはないんだもん。
 かみさまが、かってにうごかしたの。わたしをまさむねにあわせるために、あそこにわたしをおいたの。」

なんで伊達政宗という人間を選んだのか。
なんで藍須心愛という人間を選んだのか。

そんなことは知らない。心愛は神様ではないから。

だけど事実、心愛は選ばれてしまっているのだ。
もうどうしようもない。というかどうする気もない。
ただ、この神様が与えてくれた出会いを、すぐに失いたくはない。

「わたし、ちゃんとかじとかてつだうよ!」
「ぜったい、ここのひとたちのめいわくにならない!」
「いまならもれなく、きすかはぐしてあげる!」
「わ、わたしおおまかにならみらいだってしってるよ!」
「ちゃ、ちゃんとまさむねのてんかとういつのおうえんするよー!」
「うあー!おねがいしますすてないでー!」

「…ぶふっ!!!」

なんとか耐えていた政宗だが、とうとう再び噴き出した。
だんだん必死度が上がっていく子供の様子が、おかしくておかしくて。
しかも最後には『捨てないで』
―――――誰も捨てるなんて言っちゃいないだろうに。

もう今度は声にすらならない笑いを吐き出しながら、よじれる腹を抱え込んだ。
息ができない、死ぬ。などと本気で思った。

「…ははは、は、あ、Ahーー…ったく、オレを笑い死にさせる気か、cute girl」
「…おまえしんそこむかつくな」
「未来まで知ってるときたか、そりゃすげぇな。面白すぎだぜお前」
「それほめてる?ほめてないよね?ばかにしてるよね?」

こんなに笑ったのは久しぶりだ。
…いや、もしかしたら初めてかもしれない。

くっくっくと思いだし笑いを噛み殺しながら、むぅと頬をむくれさせている少女の頭をわしゃわしゃと撫でる政宗。
髪をぐちゃぐちゃにされて、心愛はさらにむくれた。
なんかもうすっごいムカつきすぎて、運命とか考えてた自分が馬鹿らしくなってきた。

「ひっしにせっとくなんかしたわたしのあほ…」
「Ah?何しょぼくれてんだ。喜べよ、オレぁ気が変わった」
「…は?」
「お前のことが気に入った。だから、お前がずっとこの城にいれるようにしてやるよ」
「!」
「感謝しろよ?」

そう言ってニヒルに笑った政宗に驚きながら。
心愛はコクコクと頷いた。

それから二人並んで水で顔を洗ったが、お互い手拭いを持っていないことに気が付いた。

二人とも、政宗の着物で拭いた。



城の家臣や女中たちが、その光景を微笑ましげに眺めていた。
「なんだか親子のようね」と、そう囁き合いながら。






(あ、てめ何勝手に人の着物で拭いてやがる!)
(だってわたしのでふいたら、わたしのきものがぬれちゃうじゃん)
(…オレだって濡れんだろ?)


prev / next

[ back to top ]


- ナノ -