Oh my little girl !

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目を覚ます。
視界に広がるのは見たことのない天井。布団はいつものふわふわ羽布団ではなく、重く硬い。
身動きを取ろうとして、気づく。
腕短けー…

「あ、目ぇ覚めた?大丈夫?どっか痛いとことかある?」

そして、寝ている自分のすぐ隣に座っている人物に気がついた。
黒髪のその男は、にっこりと笑って自分を見降ろしている。
心愛はとりあえずコクリと頷いた。

「そう、よかった。じゃあちょっと待っててね。」

そう言って男は部屋を出て行った。
心愛はとりあえずそこから起き上がる。だがいつもの感覚で起き上ったせいか、頭が重くて後ろにコテンと倒れた。幼児の体は頭が大きい。不便だ。

「Hey little girl. 具合はどうだ?」

部屋に戻ってきた黒髪の男と一緒に入ってきたのは着流し姿の伊達政宗。
ああやっぱ夢じゃなかったんだなどと考えながら、とりあえず心愛はぺこりと頭を下げた。
そして下げた頭が重くて布団に顔をつっこむ。何してんだと政宗に笑われた。

「お前なんであんな森になんかいたんだ。すぐそこが戦場だったんだ。下手したら死んでたぞ」

2・3歳ほどの幼児に、この男は戦場だとか死だとかを諭そうとしているのか。
自分は中身が十六歳なわけだから話もわかるが、心愛の知っている2・3歳はそんなに賢くない。
ゲームの世界の幼児は皆賢いような設定にでもなっているんだろうかと思ったが…

「もう梵〜こんな小さい子がそんな話わかるわけないでしょ〜」

そうゆうわけでもないらしい。
どこの世界でも子供は子供だ。

「…まぁそうだな。じゃあ…家は?…行く当てはあんのか?」
「…あったらあんなとこにいないよ。」

返事をした声は、心愛自身驚くほど不貞腐れたものになっていた。
こんな場所に家なんかないし知り合いなんて一人もいない。しかもこんな体じゃ何もできやしない。
辛くて悲しくて、思わず八つ当たりしてしまった。この人のせいじゃないのに…と心愛の心にはさらに情けなさが加わって、瞳に涙が溢れてきた。

「お、おい…」
「ごめんなさい…わたし、きづいたらあそこにいて…なんで、こんなことになっちゃったんだか、ぜんぜん…」
「わかったわかった。とりあえずはここにいていいから、安心しろ。」
「え、梵マジで?」

黒髪の男…伊達成実のツッコミなんて完全スルーで、政宗は心愛の頭を撫でてなんとかあやそうとする。どうやら子供に泣かれるのが苦手らしい。
だけどその撫で方がやけに雑だ。痛い、と文句を言いかけて、やめた。
とりあえず相手もいっぱいいっぱいぽいから、あまり困らせちゃならんだろう。

「そうだ。自己紹介がまだだったな。オレは奥州筆頭伊達政宗だ。なんかお前は知ってたみたいだけどな」
「…ゆうめいなんで」

ゲームのことは言わないでおこうと思った。あまり混乱させるようなことは招かない方がいい。
いや、そもそも別世界から来たなんて言葉、信じてはもらえないだろう。
なら、自分が十六歳だと言っても信じてもらえないだろうな。…当り前か。

「こいつはオレの従兄弟の伊達成実。なるみでいいぞ」
「ちょっと。そんなの教えないでよ」
「ガキには『しげざね』なんて言いづらいだろ。なるみでいいじゃねぇか。で、お前はなんて名前だ?little girl.」
「ここあ。こうかく」

そして心愛は、指で畳の上に漢字を書いてみせた。その字はかなりわかりにくいが、別に読めないというわけではない。
政宗と成実は、心愛が字が書けることに驚いた。だが心愛は、自分がその行動で二人を驚かせているとは気づいていない。わかった?と聞いて、二人が頷くのを見て満足そうに微笑んだ。

「あと、そのりとるがーるってのやめて。わたしはりっぱなれでぃーなんだから」
「!お前、南蛮語がわかんのか」
「かんたんなのだけね」

さっきまでのしゅんとした表情なんてどこへやら。心愛は誇らしげにふふんと笑った。
英語が得意というわけではないが、中学にも高校にもちゃんと通ってたし、習った単語ぐらいならわかる。

「へぇ〜すごいなぁちっこいのに」
「ちっこくなりたくてなったわけじゃないもん」
「Ha!おもしろいじゃねぇか。なかなかいい拾いもんしたかもしれねぇぜ」

おぉ…どうやら気に入られることに成功した模様。
心愛は心の中でガッツポーズをとった。気にいられたもん勝ちだ、こんなもん。

なぜゲームの世界なんぞにいるのか。なぜ体が小さくなっているのか。
疑問はいろいろあるが…とにかく今は、どうにかして、生きる法を掴まなければ。
…と、心愛は自分でもびっくりするほど冷静だった。

「そうだ。飯、食うか?」
「ごはん?うん、たべ――」

ぐーーー…

「………」

言葉より先に腹が返事をしてしまった。はっずかしい。

「…食うみたいだな」
「…うん」

こうして心愛の伊達軍での生活がスタートした。






(そういえば、なるなるって――)
(え、ちょ、まって!なるなる!?)
(うん。なに?)
(え、えー…何でもないです)
(HAHAHAHAHA!!!)

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