▽ prologue
あなたならどうします?
目覚めたら突然体が幼児化していて、初めて会った男に「俺がパパだぜ!」なんて言われたら。
私はとりあえず受け入れました。そんな現状を。
どうしようもないんだろうなってことはわかっていたし、どうにかしようとするのも面倒だったから。
そんないい加減な選択を、私は今でも後悔していない。
誰が何と言おうが私は、あの人の家族であり、娘だ。
だから胸を張って、私は言えるよ。
「私は伊達政宗の娘です!」
Oh my little girl !藍須 心愛は心底困っていた。
「どこ…ここ…」
普通に自分のベッドで寝ていただけのはずなのに。
どうして薄暗い森の中などに居るのだろうか。
しかもどこかそう遠くない場所からは、何やら絶叫やら悲鳴やら雄叫びやらが聞こえてくる。
どう考えても、よろしい状況にいるとは思えない。
さらには…
「ほっぺた…ぷにぷに…」
…別に、突然赤ちゃんもびっくりなモチ肌になっていたとゆうわけではない。
赤ちゃんそのものになってしまっていたのだ。いや、赤ちゃんと形容するには少し大きいか。自分の足で立てるし、髪もちゃんとある。ただ、手足はかなり短く小さく、声は幼く呂律も上手く回らない。なんとなくでだが、2・3歳と言ったところだろうか。
何もかもやる気がせずにぐでーっとベッドで眠りこんでいて、目覚めたらコレだ。
え、ドッキリ?とか言ってる場合ではない。
ドッキリで身長縮められたら世の中終わってる。
「な、なんなのこれ…」
体が幼くなって、涙線も緩くなったのだろうか。すでに半べそだ。だが中身自体は結構冷静に作動している。泣いていても仕方ないと、とりあえず悲鳴やら何やらが聞こえる方とは逆方向に歩きだそうとした。
が、すぐに自分のシャツの裾を踏んで転んだ。
体が幼くなっても服はそのまま、という概念が抜けていたのだ。
ずべしゃっと見事に顔面から土に突っ込んだ心愛は、誰が見ているわけでもないのに情けなさで顔を上げられない。
「うぅ…どうしよう…」
「Ah?なんでこんなところにガキがいるんだ?」
「!?」
急にふりかかった声に、心愛の体がビクリとゆれた。
だが心愛は、今度は怖さで顔を上げられない。
これはもう無視するしかない。
そう考えて死んだふりを決め込もうとした…
その時、両脇に手が入ってきて、そのままひょいと小さな体は持ち上げられた。
「ふわぁっ!」
「おい、何してんだお前」
不審そうな目で、心愛を持ち上げた男は言った。
その男の姿を前に、心愛は目をこれでもかというほどひん剥く。
青い陣羽織に、三日月の飾りがついた兜。
その腰には刀が六本。
これは、以前自分がしていたゲームの中の…
「だて…まさむね…」
ポツリと呟く。
まさか。そんな馬鹿な。
でもこれはコスなんかじゃない。絶対。だってどう見ても普通の人じゃない。
そう言えば、さっきからなんか生臭い臭いがするような…
――これ、血の臭い?
…うっそだー…
「Oh…オレを知ってんのか?…って、Ah?どうした?おい!」
あまりの衝撃に、心愛は雑に持ち上げられたその状態のまま意識を飛ばした。
そうここから少女の新たな人生が、幕を開ける。
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