Oh my little girl !

▽ I am the best one


そろそろ本格的に冬入りだなというそんな頃。
奥州の港には一隻の船が止まっていた。

そこからやってくる客を、心愛は奥州の冬の厳しさに震えながら門で待つ。
当然、前回と同様門番は困り果てていた。
そしてやっと到着したその客人を見て、心愛は思わず一言漏らす。

「こんなさむいのに、やっぱりちゃんと ふくきないんだ…」

その船長の名を、長宗我部元親という。










「で?何しにきたってんだお前は」
「んだよ、お前が子供作ったって聞いてわざわざ祝いに来てやったんだろーが」
「何で偉そうなんだよ。誰も呼んでねぇっつの」

元親を城の客間に通し、政宗は心愛を膝に抱えて面倒くさげに彼の対応をする。
心愛はこの時、この二人ってこんな仲良かったんだ…と内心驚いていた。
どうやら政宗にとって唯一だとも言える友人、らしい。(幸村は友人じゃなくて好敵手)
いやはや友に子供ができたからといって、四国から奥州まで遥々海を渡ってくるとはなかなかだ。
もはや親友とか言っちゃっても問題はないんじゃなかろうか。

「ていうかお前いつの間に嫁さんもらってたんだ?聞いてねーぞ」
「嫁なんかいねぇよ。こいつは拾ったんだ」
「拾った?ああ、通りで…」
「あ?」
「いや、お前に子ができたって噂で聞いてすぐに船出したっつーのに、それにしちゃ割ともう子供でけーなと思ってたんだよ」

私も、やっぱ実物でけーなと思ったよ。

「ここあっていいます。よろしくねちかちゃん」
「ち、ちかちゃん??」

そんなふざけた呼び方をされるのは初めてだと、元親は思わず目を丸くする。
だが次の瞬間には、その子供の父である政宗を睨みつけていた。

「お前何教えてんだ、馬鹿じゃねーのか」
「オレぁ何も教えちゃいねぇよ、馬鹿じゃねぇ。ガキの言うことだ、気にすんなよ」
「ちかちゃんはうつわがおっきいんだから、べつにこんぐらいのこと きにしないよね」
「お?おう、そうだな」
「さっすがあにき!」

幼子にアニキと呼ばれて上機嫌になった元親。
いろんな細かいことは気にしない。さすが、器がでかい。

「…kitty,お前こいつのことも知ってたのか?」
「うん。さいかいのおに、でしょ?」
「おお、よく知ってるじゃねーか!てめーが教育してんのか?」
「だからオレぁ何も教えてねぇっつの。こいつは変わってんだ」
「ほー」

元親は数日は奥州に滞在するとのこと。
「よろしく」とお互い言葉を交わしたその後、お酒を容易した小さな宴を開催した。
その時もやっぱり政宗と元親は仲良さげだった。




***




傍にいるのに独りぼっちな気分。

「なんだこりゃ」
「これは船の方位・進路を測るための優れものなんだよ。この前見つけたお宝に混ざってたのさ」
「ほお…南蛮の品か?」
「だろーな。日の本じゃこれは作れねぇ」

異国かぶれ同士、ちかちゃん政宗コンビは毎日お互い自慢の品を見せ合っては楽しそうに談笑していた。
その様子をいつも菓子を頬張りながらじっと見ている心愛。
正直言ってつまらない。

もう一週間になるだろうか。
うれしいお客さんがいるのに、何故か退屈な日々。
話に入っていけないことはない。物についての知識は下手すりゃこの二人よりかなり豊富だ。
しかし如何せん、興味がわかないのだから仕方がない。
自分が放置されているこの状況は気に入らないが、無理にこの二人の間に入って行こうとは思わない。

「…ちちうえ、このだいふくおいしいよ」
「そりゃよかったな。オレの分も食っていいぞ」
「おお、欲しけりゃ俺のもやるよ心愛」
「…いらない」

別に食い意地はって大福よこせアピールしたわけじゃないわボケ。

「…せっかくおいしいんだから、ひとりじゃやだよ」

ぽつりと漏れた言葉は、話に夢中になっている政宗には届かない。

なにさ、男同士の話ってそんなに楽しい?
ちかちゃんが来てから毎日いっぱい話してるのに、まだ足りない?
心愛はどれだけ我慢すればいいの。あと何回一人でおやつを食べればいいの。
まさむねのくせに。
なまいき。

「ちちうえ」

くいくい、と心愛は政宗の袖を引いた。
そして振り返った政宗の隻眼を、上目づかいで見つめる。

「ずっとちかちゃんとしゃべってばっかじゃつまんない。ここあにもかまってよ」

ズギュバンッ

ちちうえのハートに渾身の一撃。

「今すぐ四国に帰れ長宗我部ぇ!!」
「なんだよお前急に!?」
「べつにかえさなくてもいいけど…」

めずらしい心愛の直球デレに、悲しくもこの養父はまだ免疫がない。
しっしっ!と、猛烈な勢いで彼は客人を部屋から追いやった。

「sorry 心愛!寂しい思いさせちまってたんだな!」
「う、ん…?いや、たいくつだっただけだけど…ちかちゃんにわるいことしたな」
「Ha!あいつのことなんか気にすんな!さぁCome on!! 好きなだけオレに甘えていいぜ!」
「…じゃあいっしょにだいふくたべよ」
「?」

そんなことでいいのか、と拍子抜け―――というか若干残念そうに、政宗は尋ねる。
一体何を期待していたのかと、心愛は呆れながら頷いた。

「そんなことでいいんだよ。いっつもあたりまえみたいに まさむねがしてくれることが、うれしいんだよ」
「―――っ!」
「ねーちかちゃんもそこにいるんでしょー?いっしょにたべよー」

部屋を追い出され襖の前で不貞腐れていた元親を呼び戻し、心愛は大福を差し出した。
むすっとしていた元親も、心愛の浮かべる笑顔に一瞬にして毒気を抜かれる。
ふうと息をついて、わずかに目元を細めながら礼を言うとともにその大福を受け取った。

「じゃああらためて、いただきまーす」
「「…いただきます」」


特別なことなんて必要ないから。
ただ変わらない日常がそこにあればそれでいい。
それにお客人が増えること自体は、何も困らない。嬉しいし、楽しい。

でも今回は、あまりにも父親とその友達が仲良しさんだから。
不覚にも少しだけ、嫉妬しちゃったんだよね。







(ちかちゃん、さっきちかちゃんがもってた ふねのほういはかる
すぐれものってやつ、らしんばんってなまえだよ。しってた?)
(!おめぇなんでんなこと知ってんだ!?)
(わたしってものしりなの)
(じゃ、じゃあこれはわかるか?)
(ああこれは…―――――…)
(す、すげぇ!!)


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