Oh my little girl !

▽ on my own


「おい政宗!心愛を俺にくれ!」
「はあ!?お前になんかぜってぇやらねぇ!!帰れ幼女趣味!!」

心愛の目の前では、今まさに彼女の奪い合いが行われていた。

はぁ、モテる女って辛い。
そう言ってたそがれる彼女はなかなかの大物だと小十郎は思った。

「大体なんだってんだ急に…おま、これまだ三つだぞ?」
「いやいや、別に嫁にくれってわけじゃねぇって!それなら俺ぁもっと色っぽくて綺麗な―――」
「オレの娘を馬鹿にしてんのか!!」
「えええ!?え、いや、そりゃ心愛はかわいいけど―――」
「やっぱ狙ってやがんのかてめぇいい度胸だな!!」
「えええええ!?ちょ、おい、」
「こいつの旦那はオレより強ぇ奴しか認めねぇからな!おら来い!今ここでてめぇたたっ斬ってやる!」
「おいおいおいおいおい待てよ落ちつけって!!」

あの父親はどうしてあそこまで余裕がないのか。
すでに六本の刀を手に振り回している彼を見て心愛も小十郎もため息をついた。
心配なんかしなくたってどこにも行くわけなんかないのに。大事にしてくれるのは嬉しいけど、あそこまでされるとなんか信用ないんだなぁって思っちゃう。
心愛はずずず、と縁側でお茶をすすった。庭ではすでに若干楽しそうに養父と元親が武器を交えている。
傍にある石灯篭がそろそろ破壊されそうだ。

「心愛、めんどくせぇからって放置してないでいい加減止めてくれねぇか」
「そう?もうちょっとぐらいいかなって思ったけど…わかった」

素直に頷いて、心愛はお茶を隣に置いた。
そして躊躇うことなく、男二人の争いの場へ意気揚々と飛び込んでいく。
ずずず、と小十郎が茶をすすった。

「ちちうえー」
「Ouch!心愛!あぶねぇじゃねぇか、刀振り回してるところに突っ込んでくるんじゃねぇ!」

炎が上がり雷が舞っていた戦場もといいつもの庭は、水を差したように静まった。
二人が絶対攻撃を止めると確信していながらの行動ではあっただろうが、あまりの無鉄砲さにさすがの元親も驚きを隠せない。下手をすれば養父の刀であの世行きだ。
政宗は刀を仕舞って心愛を抱き上げ、抱き上げてもらった心愛はぺち、と小さな手で彼の額を叩いた。

「…何だよ」
「そもそもこんなとこで、かたなふりまわしてる ひとがわるい」

どうやらお説教タイムの始まりらしかった。
小さな子供に叱られてしょげる養父を、元親はにやにやしながら眺めた。

「Ah…けどな、心愛」
「ことのいきさつは、しってます。どうかんがえても、かたなまでだすひつようは なかったです」
「………」

ぶくく。元親が噴き出した。

「こら、ちかちゃんもわるいのよ。ろりこんは、はんざいです」
「ろりこん?」
「ちっちゃなおんなのこを すきになること」
「ああ!?だから俺にはそんな趣味ねぇっつうの!!」

正確にはロリコンであることが犯罪なわけではない。
その性癖をこうして明らかにし、周りに被害をもたらそうとすることが悪いのである。

「俺が心愛がほしいっつったのはおめぇが俺の船に乗れば役に立つと思ったからだよ!」
「なあんだ。つまんね」
「おいこら心愛」

まぁそんなことだろうとは思ったけど、と心愛は養父に抱き上げられたままため息をついた。
こちらの受け取り方にも難はあったが、それにしてももう少しちかちゃんの方も言い方というものがあったろうに。
心愛は前を向いてきっぱり告げる。

「ちかちゃん、さそってくれてありがとう。でもごめんね。ここあは、ここにいたい」

娘の迷いない言葉に政宗は少々ドキッとした。
さすが俺の娘。やっぱ俺のことが大好きなんだな。パパとは離れられないんだな。
はっきりNOが言えるお前、かっこいいぜ。

「まぁそう言うなよ心愛、俺の船は楽しいぜ?」
「このおしろも、じゅうぶんたのしいよ」
「いろんなもん見せてやれるし、いろんなもん食わせてやれる」
「でもこじゅーろーのやさいが たべれなくなっちゃうもん」

小十郎は膝の上に湯飲みを取り落とした。
お、俺の野菜がそんなに好きか心愛…!これからも愛情込めて作るからな…!
今日の飯はなんとしても心愛の好物にしようと決めた。

「っかー!おめぇそんなにここが好きか!」
「てゆーかわたし、ふなよいするから そもそもむり」
「「「…………」」」

どうしてだろう。
彼らには、今の一言が彼女の一番の本音のように聞こえた。

「またいつでもあそびにくればいいよ。なんでもおはなし してあげるから」
「…おう!」

次の日、元親は海へとくり出して行った。
ちなみに心愛はこの日寝坊して見送りをしていない。

起こしてこいと要求する元親を無視し、あえて彼女を寝かせたままにしていた政宗と小十郎の真意を測るには容易い。
元親は「お前らいつからそんなちっせぇ奴らになったんだ」と文句を垂れていた。







(もう、なんでだれもおこしてくれなかったのー!)
(あいつとはもう散々遊んでたじゃねぇか、別にいいだろ)
(わたしとちかちゃんが なかよくなったのが きにいらないのか!
 なんてちっちゃいおとこに なってしまったのだでぃー!)
((…なんであいつと同じこと言いやがるんだ))


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