Oh my little girl !

▽ never too late


城下の幸村のところまで走って行きたかったところだが、生憎途中で体力が切れた。

仕方なしに、佐助が心愛を抱えて走る。佐助が帰ろうと言っても心愛は拒否するのだ。
あんな馬鹿知らないっと、完全に拗ねてしまった。

「ゆっきーーーー!!!」
「!?心愛殿!どうされたのだ―――ぐふぉぉっ!?」

団子の入った袋を手に下げて、城への帰り道を歩いていた幸村。
突然降ってきた心愛の体当たりを受け、思わずよろめいた。
降ってきたというのは、佐助が幸村の上空から彼女を下ろしたためだ。
…下ろしたというより落としたという方が正しいが。

「ゆっきー!あのね、あのね、ばかむねがね、あの、だから、わたしね、たけだに、むすめに…てかいまのこわかったぁ!」
「お、落ち着かれよ心愛殿。わかるように話してくだされ」
「ゆっきーのむすめにしてください」
「は!?」

至極簡潔。

だが内容として理解するにはさっぱりだ。
とにかくちゃんと説明してくれと頼まれ、今度は心愛も丁寧に話した。

「あのね―――――」






「…それで、某の娘にしてくれと…。」
「そう!おおきくなったらおよめさんでもいいよ!げんじものがたりだねひかるげんじだね!」
「よ、嫁などと!破廉恥な!」

嫁が破廉恥だとはどうゆうことだ。
嫁とのいろいろが破廉恥なのはわかるが、嫁=破廉恥は成り立たないぞ。
と、そんな話はどうでもいい。本題からズレてる。

「ゆっきー…だめ?」
「駄目も何も、心愛殿は政宗殿の娘御でござろう。某の娘になど…」
「…でも、だって、まさむねがそっちのこになっちゃえっていったもん…」
「………」

怖かった。
冷たい視線が、『お前なんかいらない』と言っていて。

だけど心愛は、なぜ政宗があんなに怒っていたのかわからない。
幸村のことが好きだと言っただけで、あんなに怒るか?嫁にいってもいいと言っただけで、あんなに?
…ありえない。さすがにない。

じゃあ、なぜ。
わからない。わからないから、不安は膨らむ。

「…わたし、まさむねのほんとうのこどもでもないし。ついさいきん、ひろってもらっただけだし。それも、ただのしんせつしんで。だから、いらないっていわれたらでていくしかない。でも、いくばしょなんかないの…だからゆっきー…!」

心愛を武田へ連れてって!

「心愛殿…政宗殿は、心愛殿をいらないと言ったのでござるか?」

幸村の言葉に、少し間をおいて心愛は小さく首を横に振る。
簪の鈴が揺れ、ちりんちりんと可愛らしい音を立てた。

「ならば、心愛殿。そなたは政宗殿と話をする必要があるでござるよ。大丈夫だ。政宗殿は絶対に、心愛殿がいらぬなどと思ってはいない」
「…ほんとうに、そうおもう?」
「もちろん」

はっきりと断言されて、無意識に笑みが浮かびあがってくる。
不安でいっぱいだった気持ちは少しだけ軽くなった。

「…じゃあ、かえろっか」
「うむ」

帰って、怒っている理由を聞き出して、ちゃんと仲直りしよう。
それで、ゆっきーが買ってきてくれたお団子をみんなで食べよう。
いざとなれば、お世話は途中で投げ出したら駄目なんだよと、小十郎の名前もチラつかせておどしてやる。
武田軍はすごく魅力的で、大好きだけど。

やっぱり心愛は、政宗の娘でいたいのだ。
あのまま放っておかれてたらきっと死ぬしかなかった自分。
それを救ってくれた政宗は、命の恩人というものなのだろう。
だから、そう簡単に離れてなんかやらないぞ。

恩人さんには、恩返しというものをしなくちゃならないのだから。







(でもほんとにすてられちゃったら、ひろってね)
(う、うむ…)

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