Oh my little girl !

▽ be jealous


幸村たちが奥州へとやってきて、この日で三日が経った。

「さいきん…おさないこどものふりするのが、たのしくなってきた」

縁側に座って茶をすすりながら、心愛は一言ポツリ。
それを彼女の養父である政宗は呆れの視線で見、友である幸村は不思議そうに見た。

「kitty…お前、それをオレに言ってどうしたいんだ」
「べつになにも?ただのひとりごとだから」

近頃はこの体にもすっかり慣れ始め、この環境にもすっかり慣れた。
そのため子供の体を大いに利用しようとする思考から、子供ならではの可愛いおねだり法なども得とく。最近はそれを使うことが面白くて仕方ない。

―――と、そんなことを思う自分はちょっとだんだん変になってきていると心愛は悩む。
自分は絶対そんな小悪魔キャラではなかったはずなのに。始めは子供のふりなんて恥ずかしくて仕方なかったのに。

「幼子のふりもなにも…心愛殿は正真正銘、幼子ではござらんか」
「んーそうゆういみじゃないんだよねー」

幼子は幼子でも可愛い幼子≠演じることが楽しいのだ。
みんなコロッと騙されてくれる。

「まぁ、何が言いたいかはわかる気がするがな…要するに猫かぶりだろ?」
「おう、さすがだでぃー。わかってるぅ」
「…ハァ」

どうして自分の娘の猫かぶりを暴かにゃならんのだ。
政宗は混乱する。世の中の娘≠チていう存在は皆こんなものなのかと。
想像とは少し―――いやかなり違ったなと、間違った認識をした。

「?某にはよくわからぬでござる…」
「ゆっきーはわからなくていいよー」

三歳児らしからぬ渋めの茶をすすりながら心愛は思った。
何かが―――足りない。

「あ。ゆっきー…!」
「む?何でござるか?」
「おだんご、ほしくない?」

茶はあれど茶菓子がない。
自ら要求することはさすがにできない幸村だが、欲しいかと聞かれればすぐに頷いた。
彼は甘味が大好物である。

「ならかってきて!」
「!そ、某がでござるか…!?」

想定外。
まさかのパシリ。

「だってわたしがいったらすごくじかんかかっちゃうし。ゆっきー、おだんごたべたいんでしょ?」
「食べたいは食べたいが、わざわざ今から買いに行くほどでは…」
「うぅ…だって、わたしも、おだんごたべたい…」

小さな唇を尖らせて、目を伏せて。縁側から外へと投げ出した足をぶらぶらとさせながら、拗ねた素振り。

きゅんっ。

幸村の中に、何かが走った。

「い、今すぐ買ってくるでござる!待っているでござるよ心愛殿ぉぉおお!!!」
「そんなにいそがなくてもだいじょうぶだよー」

心愛の声は、もうとっくに城を走りぬけていた幸村には届かなかった。
少女は苦笑し、自分の真上の方の天井に視線を向ける。

「ふつう、あーゆーのってさすけにたのんだりしないの?」
「…まぁ、いつもなら俺様に頼んでくるけどさー。心愛ちゃんに言われちゃ、自分が行くしかないと思ったんじゃない?」
「perfectな猫かぶりっぷりだったからな。」

褒められているのか馬鹿にされているのかいまいちわからない政宗の言葉。
どう捉えてよいかわからず、それはそのまま流した。

「ゆっきーって、ばかなわけじゃないけど、なんかだまされやすいたいぷだよね。
 しょうらい、わるいおんなのひとにひっかかりそうでしんぱいだよ。」

三歳児に将来を心配される武将って。
天井裏の忍は静かに苦笑した。忍ぶ気などとっくに失せている。

「オレぁすでにあいつはお前という悪女に引っかかってる気がしてならねぇがな。」
「わたしあくじょなんかじゃないもーん。ただのいたいけなこどもだもーん。」

ちょっとパシリを何人か持ってるだけで。

「あはは、でも俺様心愛ちゃんなら大歓迎だけどなー」
「なにが?」
「心愛ちゃん、旦那のお嫁さんになる気なーい?」
「んな!」

天井裏からの思わぬお誘いに、政宗は驚きの声を上げた。
こんな早々に、娘に嫁入りの話が来てしまった。
父の焦りも当然といっちゃ当然かもしれない。
だが如何せん早過ぎる。

「猿飛てめぇ何勝手なこと―――」
「もらってくれるならいつでもなるよー!」
「!?!?」

父は娘の言葉に驚愕。
開いた口が塞がらない。

「うそ、マジで?」

もう一切忍べてなどいないためか、佐助は躊躇いなく廊下に降りたった。
そして目に映ったのは、嬉々とした表情を見せている娘・心愛と、茫然として今にも風に吹かれて消え入りそうな状態の父・伊達政宗。

「わたしゆっきーだいすきだし!ぜんぜんおっけー!」
「え、心愛ちゃん旦那のこと好きなの?」
「すきだよーかっこいいもん」
「「!?」」
「あ、さすけもおやかたさまもすきだけどね」

つまりは武田軍が好き、ということだ。
もちろん伊達軍だって大好きなのだが。
やはり憧れというものはそう簡単には消えない。

「そ、それも心愛ちゃんの猫かぶり?」
「ちがうよ。これはほんしん」
「わー…なんか、結構嬉しいもんだね」

ぽりぽりと頬を指でかきながら佐助が照れる。心愛はそんな佐助に、嬉しそうににんまりと笑いかけた。
ほわ〜と和やかな空気が流れる。

…というのは間違い。
ほわ〜としているのは心愛と佐助の頭の中だけ。
実際すぐ傍では、小さな雷がチリチリと散っていた。
もちろん原因は、現在イラつき度最高潮の政宗だ。

「おい心愛…」
「え、なに?ちょ、なんかばちばちなってる!ちょっといたい!な、なにそんなおこって…」
「そんなに…」
「へ?」
「そんなに武田連中が好きならなぁ…今すぐにでもそっちの子供になっちまえ!!!」
「!?!?!?」

ががーん!!

ハンパない。
養父のガキっぷりがハンパない。

「ひ、ひど…」
「しるか。てめーがわるい」
「な…!わたしがなにしたって―――」

何したって言うの。
そう言いかけた口は途中で止まる。

初めて向けられる冷たい視線に。
怖くなった。

「じゃ、じゃあいいよ…!わたし、ゆっきーのむすめになるから!!」
「えぇ!?心愛ちゃん!?」
「ばかむねの、ばかーー!!!」

うわーんと叫びながら小さな体で走り去る心愛。
彼女もまた、養父同様ガキっぷりがハンパなかった。さすが親子。

「ちょ、心愛ちゃん!?おい独眼竜の旦那!心愛ちゃん止めないの!?あ、転んだ!」
「オレぁしらねー」

馬鹿だ!この親、馬鹿だ!
口には出さずに心の中でそう叫びながら、佐助は心愛を追いかける。
短い足のくせになぜあんなに速く走れるのか。
マイペースに後を追いかけながら、佐助は腕を組んで首をかしげた。

その後の彼女曰くは、「にんげん、そのきになればなんでもできるんだよ」とのことだが。






(心愛ちゃーん待ってってばー)
(うわーん!)
(その嘘泣きわかりやすすぎだよー)

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