CLOWN×CLOWN


世話焼き×動機×良心の痛み


完全に周りに遅れをとっていた僕たちだったけど、しばらく走ると最後尾のレオリオさんに追いついた。
彼はかなりへとへとらしく汗だくで、今にも立ち止まってしまいそうだったが「乗る?」と聞くと、迷ったあげくに首を横に振った。人の力で合格したって意味ないってやつですよねわかります。


「せめて荷物だけでも持とうか」

「…すまねぇ、頼む」


割と重い荷物を受け取り、そのまま僕は彼の隣を走っていた。
レオリオさんは荷が減っただけでも少しは楽になったみたいで、僕に礼を言ってから笑顔を見せてくれた。

…というか、おいおい。
つい親切しちゃったよ僕。大丈夫か、こんなことで僕はクラピカ君を陥れる悪魔になれるのか。

それからも結構走ったと思うんだけど、ゴールはまだ見えない。レオリオさんは最終的に素肌にネクタイというなんとも残念な格好になってしまっていたが「形振り構わなきゃまだまだいけるってわかったぜ!」と元気な様子。
うーん、紳士な僕にはできないマネだけど、そういうの嫌いじゃないよ。


「レオリオ、一つ聞いていいか」

「なんだ、随分余裕じゃねぇかクラピカ。無駄口は体力を消耗するぜ」

「ハンターになりたいのは、本当に金が目当てか」


それまで黙っていたクラピカ君が口を開いた。
彼も上着を脱いではいるが、まだ余裕はありそうだ。


「違うな、ほんの数日の付き合いだがそれぐらいはわかる。確かにお前の態度は軽薄で、頭も悪い」


…久しぶりに聞いたな、この子の毒舌。


「だが決して底が浅いとは思わない。金儲けだけが生きがいの人間は何人も見てきたがお前とそいつらは違う」

「けっ…理屈っぽい野郎だぜ」

「…緋の目。それが、クルタ族が襲われた理由だ」


クラピカ君はそれから緋の目について語りだした。
僕はこの時のクラピカ君の言葉を聞いて初めて、あの赤い目にはすごい価値があって、ブラックマーケットとかで高額取引されるとかいうことを知った。
そういや僕って、結局なんにも知らないままだったんだな。
あの子達の悪行に、きちんと目を向けたことがないせいだ。


「撃ち捨てられた同胞の亡骸からは一つ残らず目が奪い去られていた。今でも彼らの暗い瞳が、無念だと語りかけてくる。私は必ず、幻影旅団を捕らえてみせる。そして仲間たちの目をすべて取り戻すんだ」


ああ、そうか…やっぱりあの傷は、そう簡単に癒えるようなものではなかったか。
彼がここにいる時点でわかっていたことだけど、彼のその言葉は僕の心に重くのしかかった。

痛い。痛いなぁ。この子の思いにはなんの間違いもない。
抱いて当然の感情に決意だ。
それを、僕は……

……あー駄目だ、考えるな。
深く考えればその分僕は身動きが取れなくなるぞ。
だって、そう、この子は何も間違っていない。一片の疑いも何もなく、この子は純然たる被害者で、加害者はあの子達。
誰に聞いたって答えは決まっている。
間違っているのは僕らの方。

だけどそんなことは考えるな、同情を抱くな。良心に従ってしまえばその時点で負けだ。
そうしてしまったら僕は必ず、誰かを失うことになる。
エゴを抱け、自分の欲のために動け。
僕が何も失わないために。僕のために、この子をここで止めるのだ。


「…悪いが俺にはお前みたいな立派な動機はねぇよ。俺の目的はやっぱり金さ」

「嘘をつくな!まさか本当に金でこの世の全てが買えるとでも思ってるのか」

「買えるさ!物はもちろん夢も心も人の命だって金次第だ!」

「な!撤回しろレオリオ、それはクルタ族のことを言っているのなら許さんぞ!」


試験に妨害はつきもの。ここで僕が何をしようと責める者はいない。試験者一人を脱落させるぐらい、簡単だ。
少し前へ回ってクラピカ君の前で通せんぼ。それだけでいい。それだけで僕の目標は達成だ。

この場合きっとレオリオさんも巻き込んでしまうんだろうけど、仕方ない。何事も犠牲は付きものだ。
いいじゃないか、どうやらこの人はお金が欲しいだけみたいだし。どうぞまた来年おこしくださいませってね。


「何故だ?事実だぜ、金があれば俺の友達は死ななかった!」

「…病気か」


そう、ほら、ここで一次試験終了まで足止めをだな…………


「決して治らない病気じゃなかった。問題は法外な手術代さ。俺は単純だからな、医者になろうと思ったぜ。ダチと同じ病気の子供治して、金なんかいらねぇってその子の親に言ってやるのが俺の夢だった」


足止めを……………


「笑い話だぜ。そんな医者になるためにはさらに見たこともねぇ大金がいるそうだ。わかったか、金金金だ!俺は金がほしいんだよ!」

「……………」


…なぜあなたは、今ここでそんな話をした…!

ああいいね、『金はいらねぇよ』って去ってく医者、かっこいいね、ぜひともなってもらいたいよ。本当に君がそんな人になれればきっと世の中のたくさんの子供たちが救われることだろうさ。
でもそんな話は試験が始まる前に済ませておいてほしかったな!聞きたくなかった!そんないいエピソード聞いちゃったら君のこと巻き込めなくなるでしょう!
あああもう…たった今自分の欲望に忠実になろうとしたとこだったのに、結局お人好しが顔を出す。


「…ちょっと僕、キル君たちのとこ行ってくる…。あ、レオリオさん、その夢すごくいいと思う。がんばってね」

「お、おう。ありがとよ」


このままここにいたって僕はどうせ何も行動を起こせないだろう。
そもそも人を巻き込むことは本意じゃないってのに、あんな人は尚更無理だ。

僕は激しく落ち込んだ。
どうして僕ってやつは、こう…優柔不断というか、思い切りがないというか。もっとクロロ君とかの図々しさを見習えっての。
とりあえず計画は持ち越しだ。大丈夫、まだまだチャンスはあるさ。


「あー姉貴、クラなんとかとの話は終わったのかよ?」


ちびっ子二人に追いつくと、キル君がちょっとむっとした様子でそう言った。


「クラピカだよキルア!」

「どーでもいいけど姉貴のこと殴るとかマジありえねー。殺してきていい?」

「もうキルア!」

「あはははは、落ち着いてキル君。あれはいいんだ、僕が悪かったから」


っていうか相変わらずバイオレンスだなこの子。
それに比べてゴン君常識人っぽい。ああ、いいな…久しぶりに価値観合いそうな人みつけた。

……あ、でも…
僕がクラピカ君の邪魔したりしたら、きっとこの子にも嫌われちゃうんだろうな。

…って、あああだからなんで僕はいちいちそういうことを考えるかなぁ。
ほんと悪いことするのに向いてないよナッツってやつは!



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