CLOWN×CLOWN


新入り×挑発×もうすぐニート2年目


もうすぐ僕が二度目のハンター試験を迎えようとしていたある日、クロロ君がピエロを連れてきた。

「新しい4番だ」
「ヒソカだよ、よろしくね◆」

細めた目で弧を描いて笑う彼を見て僕は、やべぇキャラかぶりじゃん、などと思っていた。まぁもう一年以上道化師らしいことなんてしていないのだから、そんな考えもおこがましいのだけど。現在いたって庶民ルックな僕を、向こうは気にも留めないだろう。

「…あれ?」

首を傾げる。
そういえば4番って確かいたよね?てか今のところ欠番はなかったんじゃ………あ、そうか。殺されたのか、このピエロに。

…だいじょーぶ、今更そんなのいちいち気にしないよ僕は!自分の周りが人殺しだらけなことぐらい知ってるんですからね!
でも正直ヒソカさんはあんま好きになれそうにはない印象。

「ねぇ、キミの名前も教えてよ」
「……は?」
「な・ま・え」
「僕の?」
「うん」
「…ナッツです」
「ナッツか、かわいい名前だね。よろしく」
「は、はあ……あの、僕は旅団じゃないよ?」
「ああやっぱり?何か場違いな子がいるなと思って声掛けたんだ」
「……そう」

そっか、僕って場違いなんだ。クラウンの恰好してるわけでもないのに。
初めて知った事実にちょっとびっくりしてしまった。どういう風に場違いに見えるんだろう、聞いてみたい気もするけど聞きたくない気もする。
にしても…僕が人のこと言えた義理でもないのはわかってるんだけど、なんか変わった人だ。特に何か芸をするわけでもないのにばっちりピエロメイクだし、語尾にハートマークでもついてそうなしゃべり方をするし。
それになんだか、ものすごく…人を値定めるような嫌な目をしてる。

「ヒソカ」
「…なんだい?」

やけに至近距離で僕をじろじろと見るヒソカさんに向かって、クロロ君がたぶん牽制の意味を込めた低い声を落とした。
どうやらクロロ君もヒソカさんがあまり好きではないらしい。今日はさっきからずっとご機嫌ナナメなご様子だ。
その『機嫌悪いです』オーラぷんぷんのクロロ君にじろりと睨みつけられて、ヒソカさんは何故かにやにや。僕から離れるそぶりなんて欠片も見せやしない。

「もしかしてこの子、クロロのお気に入り?」
「…………」

にやにやにやにや。意地の悪い笑い方。
そんなヒソカさんに急に肩を引き寄せられて、僕は抵抗をする間もなくその腕に収まってしまった。すると各々瓦礫の上に腰掛けていたみんなが一斉に立ち上がった。

「てめぇナッツから離れろ!ぶっ殺すぞ!」
「汚い手のけるね」

ぞわりと背筋に寒気が走る。空気が殺気ってやつに満たされてる証だった。

「うーん違った、みんなのお気に入りかぁ」

四方八方から殺気を向けられて、ヒソカさんは余計に楽しそうに笑うようになった。…うん、これは変わった人って言うより、純粋に変な人だ。
こういう反応されるのがわかってたから、クロロ君は何も言わなかったんだろうなぁ。
まったく…

「ヒソカさん」
「なに?」

自力でヒソカさんから離れ、向き直る。

「これからみんなの仲間になるんだったら、みんなを挑発するような真似はやめましょうよ。仲良くしましょ、ね?」
「…ふふふ、おもしろいねキミ」
「…はぁ、どうも」
「どう?これから一緒に食事でも」

随分急な話題転換だ。一体僕の何が彼の御眼鏡に適ったのだろうか。わからない。けどとりあえずあまり嬉しくないことは確かだ。
どうお断りすべきかと戸惑っているとマチちゃんが僕とヒソカさんの間に割り込んできた。

「あんた…師匠に何かしようもんなら許さないから」
「んー!キミもかわいいね、どう?一緒に食事でも」
「うっさい!あんたみたいなのと行くぐらいならフィンクスと行くわ!」
「…オイちょっと待てそれはどういう意味だ」

何ショック受けてるのさフィン君、今のはマチちゃんの精一杯の褒め言葉じゃないか!

そこからは何故かメンバー全員を巻き込んでの罵詈荘厳の場となってしまったが僕は気にしなかった。言いたいことを素直に言い合えるのは仲がいい証拠だよね、うんうん。
すっかり蚊帳の外になったのをいいことに僕はクロロ君に近づく。彼は難しそうな顔で、罵り合いの渦中にいるヒソカさんを見ていた。

「…ナッツ、ヒソカには近づくな」
「…はーい」

元々近づきたい相手でもなんでもなかったのにそう釘をさされた。
この世界で初めて会った同業者なのに、いろいろと残念だ。

…いや、まぁもう僕は道化師じゃなくてただのニートだし、同業者では、ないか…


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