不信×慰め×今できる唯一のこと
ナッツ姉の頼みで調べ物をするということが、オレは軽くトラウマになりそうだ。
「(問題解けないから帰るってなんだよ…!)」
自分が来たいって言ったくせに諦めるの早過ぎるんだよ!本当に解けないんだとしても、オレの念能力使えばナッツ姉に回答書かせてやるぐらい簡単なのに!なんでああもあっさり帰っちゃうかなー…!
別にオレ、ハンターライセンスなんて欲しいわけじゃなかったのにさぁ…そりゃあっても困らないだろうけど、強いて今すぐ欲しいとか思ってたわけじゃないし。ナッツ姉が受けるなら、めずらしく他のメンバーに邪魔されず二人で一緒にいれるチャンスだし受けてみよっかなーとか適当に考えて受けただけなんだよ…!なのにナッツ姉がいないとか意味ないじゃん!しかも無責任にがんばれとか言うしさーナッツ姉にそう言われたらがんばるしかないじゃんー資格持って帰るしかないじゃんー
…あーもう!
一刻も早く試験終わらせて帰りたい!この問題だって超簡単なのになんで10分も時間とるわけ?意味わかんない3分で十分だろ。
≪はい10分ーおつかれっしたー。出口のとこにいる奴に問題渡して部屋出てくださーい。採点してる間は休憩ねー≫
その時間も超無駄!このゆっるいアナウンスも超腹立つ。
当然全問正解に決まってる用紙を手にオレは立ち上がった。ちらりと隣の奴の解答を見る。はい全問不正解おつかれさまでしたー。
それから出口へ向かう途中、ふと気になって、ナッツ姉が座っていた席にあった問題用紙を見た。
まぁ、白紙だ。……ん?なんだか問題がオレのより少し難しい気がする。ナッツ姉、はずれ引いたのか。
こりゃ解けないわけだ、ナッツ姉は地頭はいいけどこんな知識問題ばっか問われたところで―――
「…いや、」
解けるだろ、これ。
五問目。この化石ってあれでしょ?ナッツ姉が盗もうとしてたやつでしょ?
覚えてないわけないよね、わかってたよね?
「なんで棄権したんだよ…」
ねぇナッツ姉、オレってばどんどんあなたのことが信じられなくなっていくよ。
ナッツ姉がこの試験に来た意味って、何?
***
僕は試験を終えたその日にホームへ戻った。
試験会場だった場所と同じようなコンクリートむき出しの床を歩くと、コツコツとブーツの踵が立てる音が反響する。
「ナッツ、もう帰ってきたのか?」
古書から顔を上げてまじまじと僕を見ていたクロロ君は不思議そうにそう言った。
シャルは?と聞かれて、まだがんばってるよと答えると、何人かいた周りのみんなにもさらに不思議そうにされる。まさか僕が棄権して戻ってくるなんて誰も思っていなかったらしい。
ていうか仮に僕が本気で試験を受けていたとしても、あの超難関とか言われてる試験に簡単に合格なんてできないと思うんだけどな。なんでみんなこんなに僕を過大評価しているのか謎。
「ハンター試験ってそんなにむずかしかったの?」
ものすごく気の利くパクちゃん。僕のためにもうお茶の準備をしてくれている。仕事が速い。
「うん、むずかしかったよ」
「どんな内容だったんだい?」
「一次はねぇ、筆記試験だった」
「ああ…」
マチちゃんの質問に答えると、みんな「それは仕方ない」と口々に頷いてくれた。
まるで僕が馬鹿だとでも言われているようで正直複雑だけど、なんだか僕を慰めようとしてくれているらしい彼らに心が温かくなる。別に僕落ち込んでないよ、大丈夫だよ。
僕は適当なところに腰掛けてお茶をいただいた。
そしたらフィン君がお菓子くれた。フェイ君が僕の頭撫でてどっか行った。ノブナガ君が「まぁ来年がんばれよ」って鼓舞してくれた。
…みんなやさしい。
「来年も受けるのか?」
「うん」
「そうか」
クロロ君はそれきりまた古書に視線を戻してしまった。
そう…来年再来年、と僕はたぶん同じことを繰り返す。
それを怪しまれるようになるのは、いつぐらいからかな。僕の目的がバレるのは時間の問題だろうか。
それでも仕方がない。
僕には、この試験を受け続ける責任があるのだ。
暖かいお茶が喉を通ると、僕は無意識の内にほっと息を漏らしていた。
どうやら思いのほか今日は気を張っていたらしい。
その時、僕の懐で携帯電話が着信を告げ始めた。僕はそれを取り出しながら飲みかけのお茶を手に自室へ向かう。発信者はジンさんだった。
『おーナッツ、試験の方はどうよ?』
「んー落ちましたよー」
『もうかよ!まぁありゃそん時の運もあるしなぁ』
やっぱりこの人も僕を慰めてくれた。
だから別に落ち込んでないんだって。
『ってゆうか、お前なんでハンター試験なんか受けたんだ?俺に憧れてか?』
「違う。まぁなんでかって言うと、見張りというか確認というかって感じ?」
『はあ?』
「とりあえず今年は大丈夫だった。だから棄権した」
『なんとゆうか…お前の言葉はなんとなく抽象的でよくわからん』
「あはは。とにかく、来年こそ試験会場の場所ちゃんと調べて教えてよね。ジンさんがどうしても手が空かないなんて言うもんだから、なんとかシャル君に調べ出してもらったんだよ。ジンさんならあれでしょ?ハンター仲間とかに聞けば一発でしょ?」
『来年も出るのか?てかそうゆうのは本来自分で汗にまみれながら必死で探してだなぁ…』
「こうゆうコネを利用するのだって手段の一つに過ぎないでしょう。むしろ一番賢いやり方じゃないか」
『そうっすねー。まぁそこまで言うなら協力はしてやるけどよ。来年こそがんばれよ?』
「ううん、がんばらない」
『はあー?』
僕は一生試験を受け続ける。そして一生がんばらない。それが一番いい。それが僕の一番望む形。
クラピカ君が、あの子が、一生試験に現れなければ…それが一番いい。
僕がハンター試験に望むのはただそれだけだ。
ライセンスとか自分の合格とか、そんなものは露ほどにどうでもいい。
僕はただ、あのこの姿が見えないことに安心したいんだ。
「でもまぁ…がんばらなきゃいけなくなったら、がんばるけどね」
望みがかなわず、将来もし、ブラックリストハンターになると言っていたあの子が復讐の炎を燃やしながら試験に現れた時は…
僕は全力で、あの子がハンターにならないよう邪魔をする。
みっともないようだけど今の僕にはそれぐらいしか思いつかない。
それが僕の決意の形で、せめてもの抵抗だ。
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