CLOWN×CLOWN


クルタ×生き残り×わがままな罪滅ぼし


子供がいた。

透き通るような金髪に赤黒い血をまとった、少年だ。

子供は穴を掘っていた。
一応向こうらへんに、人の気配はないが集落らしきものがあるのだから探せばそれなりの道具だってあるだろうに…子供は素手で穴を掘っていた。

その手を僕は知っていた。
爪は全部剥がれて、赤と土の色に染まって、きっともう感覚なんてないだろうその手を。

僕は知っていた。


僕は子供に近づいた。子供は僕に気付いた。そして警戒した。
一気に飛び退き、武器を手に、緋色の目で僕を睨んだ。

その眼も僕は知っていた。
あの日あの時クロロ君が手にしていた宝石のようなそれ。

僕は知った。


この子は間違いなくクルタ族であるということを。

「生きてたんだ…」

周りに生者の気配はない。この子だけだ。この子だけが…生き残った。

涙が溢れそうだった。
剥き出しな殺意は今この時の僕には心地よいぐらいだ。
この子になら殺されたって構わない。この子にはその権利がある。

ああ、だけど、その前に。

「手伝うよ」

そのボロボロな手と体で、これ以上穴を掘り続けるのは辛いだろう。
あと何人分だろうか。急がないと、そろそろ腐敗臭が漂い始めている。

「貴様は…」
「…通りすがりの、クラウンです」

僕は勝手に穴を掘り始めた。見る見るうちに、真っ白な手袋は茶色と赤に染まっていく。
そのうち、子供は何も言わずに自分の作業を再開し始めた。

警戒するのも、疲れるのだろう。それにきっと、面倒なんだ。
今殺されたら殺されたで、それは構わない。きっとそんな風にこの子は思ってる。

もしかしたら、いっそ殺してくれとも。


僕は知っていた。

生き残るということの辛さと絶望を。







「クラピカ君、この草も食べられるよ」
「そうか、知らなかった」

荒れた田畑から作物を収穫することは既に不可能だった。
僕と子供―――クラピカ君は、集落の周囲の森で野草や木の実を収穫し、食糧としていた。

「あ、その木の実は昨日かじったけど美味しくなかった」
「…美味しい美味しくないの以前にこれは微弱だが毒性があるから食べられない」
「え、マジ?うわー食べきらなくてよかった」
「…とりあえずなんともないんだな?」
「うん」
「ならいい」

僕はこの地へやって来た初日、クラピカ君にここから離れることを勧めた。
だけど彼はそうしなかった。この地に残り、生きることを決めていた。
強い子だと思う。そして…やさしい子だ。

「お前はいつまでここにいるんだ?」
「え、何その嫌そうな感じ。出てってほしいの?」
「そういうわけじゃない、が…何分私はお前がここにいる理由も何も聞いていないからな」
「えーだから通りすがったからちょっと立ち寄ってみただけで」
「ここはそんなちょっと立ち寄れるような場所じゃないはずなんだがな。言えないなら別にいい。好きにしろ」

彼は果てしなく僕に興味がなかった。
尋ねてくることはいつも便宜上のもので、結局何も答えない僕に何も追求をしてこない。
彼の中で僕という存在はただの『何かわからないもの』だ。

別にそれが堪えるというわけでもないけど、ほどほどに寂しい。
このまま僕がここにい続けても、彼は僕に心なんか開かないだろうし常に保っているわずかな警戒ですら解かないだろう。
彼は強くてやさしい。その上何よりかしこい。もう完璧だ。見た目も麗しいし。

ちょっと脱線。
つまり何が言いたいかというと、そのかしこい彼に対して、僕は何をするのが正解なのかということだ。
そもそも僕はここにこんな子供がいるなんて思ってたわけでもなかったから、今の自分の状況は想定外。
クラピカ君に僕の目的だなんだを聞かれても答えられなかった。自分にもわからないから。

ただ、とりあえず傍にいてみようと思って少し居座ってみた。
僕になにか出来ることはないだろうかと、常考えてはいるがそれがなかなか難しい。
彼は一人を好むし僕を必要以上に寄せつけようとしない。
そして頭がいいからこそ、僕への警戒をいつまでも解くことが出来ない。別に警戒するような人間じゃないということを感じ取っている節はあるのに。さっき言った通り、実際の興味なんて欠片もないのに常に注意力は散漫で、彼の精神は少しずつ削られていく。

…この情報だけで考えてみると、僕ってかなり邪魔なんだと思う。ここにいるべきではない気がする。
でも不安だ。彼を一人にすることが。
傍にいてあげたいと、そう考えるのは僕のエゴ。

離れられないのは、僕のわがまま。

「…ここを出たところで、行く宛もないし」

やっぱもうしばらく居座ってみよう。
そうだな、せめて…
彼が泣いて、笑うまで。

「クラピカくーん、火の用意できたよー」
「ああ、わかった」

そのために、どうやって僕への警戒を解いてもらおうか。
クロロ君たちにはなんかいつの間にか懐かれてたから、あえて懐いてもらおうとするとなんだか難しいな。
キル君たち…も、いつの間にか懐いてたな。

まぁ今回ばかりは、そうもいかないし。どうしたもんか。




「―――はい」
『あ、もしもしナッツ姉シャルですよー元気してる?そろそろ帰って来る?』
「あはは、元気だよ。昨日も電話したじゃん」
『てかナッツ姉、そこで何してんの?まだ穴掘ってるわけ?』
「ううん、もうそれはとっくに終わってるよ」
『じゃあ…』
「ちょっとここが気にいちゃってね。今は自給自足生活を楽しんでるよ」
『何ソレ、そんなの楽しいわけないじゃん。いいから帰っておいでよ』
「ごめんね、シャル君。…あと、電話してるといろいろ怪しまれそうだから、これからは極力電話掛けないことにするね」
『は!?ちょ、待って怪しまれるって何?』
「あははー。まぁそうゆうことだから、もちろんそっちからの電話も出れない。心配はしなくていいから。それじゃあ、またしばらくしたら一応連絡することにするね。ばいばい」
『ちょ、待ってナッツ姉――――』



プツッ

幻影旅団は、クラピカ君にとっての仇。
クラピカ君の方に関わると決めた今、僕は常にどっちにもいい顔をしてるわけにはいかない。


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